トラッシュキャン・シナトラズ vs サニーデイ・サービス @ 渋谷クラブクアトロ

トラッシュキャン・シナトラズ vs サニーデイ・サービス @ 渋谷クラブクアトロ
1999年のカップリング・ツアー以来となる、この2バンドによる日本ツアー。そもそもサニーデイがトラキャンのファンで、渡英した時に彼らのいるスコットランドまで会いに行ったりして、友達になって、セッションしたりして、それで1999年のカップリング・ツアーにつながったりして、曽我部のプロデュースでトラキャンの作品が日本リリースされたりして――というような関係であるのは、ファンはご存知だと思う。
なお、曽我部は、「この人たちのファーストアルバムを死ぬほど聴いて、それがサニーデイの礎になったのは、ぼくたちの中では有名な話」と、こないだブログに書いていたが、勝手に補足すると、最初はサンプリング&打ち込み主体だったサニーデイが、今のようなロック・バンド編成にシフトする時の、その大きなきっかけになったバンドだ、ということだと思います。

このツアー、3月1日渋谷クラブクアトロ、2日心斎橋クラブクアトロの2本だったが、東京、即日ソールドアウトしたため急遽この4日にも追加公演。4日も完売、超満員。なお、昨日3日にも、トラキャン自身が希望して、ここ渋谷クラブクアトロで、急遽アコースティック・ライブを行ったそうです。サニーデイの出演はなかったが、曽我部は観に行き、そしたらステージから呼びかけられ、2曲共演したとのこと。
ではこの4日、レポートします。まず先攻、サニーデイから。

1.Baby Blue
2.あじさい
3.恋はいつも
4.ふたつのハート
5.いつもだれかに
6.恋におちたら
7.月光荘
8.ここで逢いましょう
9.週末
10.胸いっぱい
11.NOW

私、1曲目と7曲目は、再結成以降に、ライブでやったの観たの初めてです。特に1曲目、最も好きなアルバムの最も好きな曲なので、いきなりこれで始まって「おおっ!」とアガりました。あとでスタッフにきいたら、再結成一発目のライジング・サンでやって以来だったそうです。
とにかく、この曲が入っている4thアルバム『サニーデイ・サービス』も、そしてそのオープニングを飾るこの曲自体も、ヘロヘロでスカスカでジャンク、でも、えもいわれぬ独特の、いい意味でも悪い意味でも他の誰にも真似できない、サニーデイ・サービスにしか出せないバンド・グルーヴが最もわかりやすく表れていて、そこが僕は大好きなんだけど、ある意味この日のライブ自体、全体的にそういうものだった。
ニュー・アルバム『本日は晴天なり』のレコーディングや、何度かのイベント出演や、今回を含め二度のショート・ツアーによって、ライブにおけるサニーデイ、ようやく仕上がりました。と言っていいライブだったと思う。ただしそれは、「演奏が上手くなった」「プレイが安定した」ということでは、必ずしもない。サポートが入っている場合はまた別だけど、この3人だけでやる場合は、安定すると同時に、ちゃんとヘロヘロスカスカしていないといけないのだ、我々ファンからすると。ピシッとされても困るのだ。それじゃサニーデイじゃないというか、他のバンドでもできるというか、なんというんでしょう、さっきの言葉でいうと「えもいわれなくないといけない」のです。
今日はちゃんとそうなっていて、この3人ならではの「あのグルーヴ」「あの感じ」が生まれていた。かなりうれしいライブでした。


で、後攻、トラッシュキャン・シナトラズ。まずセットリストは、こんな感じでした。

1.I Wish You'd Met Her
2.Easy On The Eye
3.Easy Read
4.Astronomy
5.All The Dark Horses
6.In The Music
7.Freetime
8.I Hung My Harp Upon The Willows
9.Usually
10.People
11.Obscurity Knocks
12.Prisons
13.Hayfever
14.Weightlifting
15.The Safecrecker
16.Oranges And Apples

アンコール
17.How Can I Apply with 曽我部恵一
18.Town Foxes with サニーデイ・サービス
19.Hairy Years
20.One At A Time
21.The Engine

サニーデイ田中貴にきいたんだけど、この人たち、今はイギリスとアメリカに別れて住んでいて、今回みたいに何かスケジュールが入ると集まる、今回も日本で落ち合ってからリハーサルに入ったそうです。つまり、解散こそしていないものの、いわゆる「常にずっとやってる」状態ではないわけで、そんなところにも時の流れを感じたりもするが、ライブ自体、演奏自体、音楽自体は、その真逆だった。
僕が初めてトラキャンを知ってから十数年経っているのが嘘のように、なんだかもう凛々しさまで感じるほどに、見事におんなじ。あの「ただしゃべっている時」と「歌っている時」の境目のない、平熱だけどちょっとメランコリックなフランクの声。ギター3本、鍵盤、ベース、ドラム、どれもがもう「やわらかい」という言葉をそのまま音に置き換えたみたいな鳴りの各楽器。で、あの曲たち。あのアレンジ。あのメロディ。
すべてがもう、瞬間冷凍みたいに時が止まっている。ただ、これ、トラキャン好きな人ならうなずいてくれると思うけど、「古い」とか「昔」とか、ましてや「懐かしい」感じなのではない。それって、「新しい」とか「今」とかと対になっているからありうるもんだけど、そういう次元じゃなくて、言ってしまえば「時がない」のだ。ザ・ラーズに“TIMELESS MELODY”という曲があったけど、正にそれ。「普遍」とか「永遠」というとかっこよすぎるしおおげさだけど、それに限りなく近い感覚。
この、何の変哲もなければ刺激もない、「ただ目の前で歌われて演奏されているだけ」な音が持つこの引力、昔もやられたけど、今もやっぱり、やられます。クアトロを超満員に埋めたオーディエンスの頭上に、何か文字を浮かべるとしたら、間違いなく「うっとり」だ。終始、そういう幸せな空気に包まれたライブだった。

あと、演奏時間はサニーデイが約1時間、トラキャンは約1時間45分で、アンコールは5,6曲やったんだけど、その1曲目で曽我部が登場、一緒に歌いました。で、2曲目で、田中と晴茂くんも出てきて、全員でのセッションになりました。そこでやった“TOWN FOXES”が、このツアー会場限定で販売された、トラキャンとサニーデイのスプリット・シングルです。(これ →http://ro69.jp/blog/hyogo/31720)トラキャンの“TOWN FOXES”が1曲目、それに曽我部が日本語詞をつけて“夢色の街で”と改題したサニーデイ・バージョンが2曲目に入っています。なお、フランクは、その日本語詞のほうで歌っていました。

あと、フランクの話でもうひとつ。ステージで、彼の左サイドに譜面台が置かれていて、「ああ、歌詞とか曲進行とか覚えていないのかな」と、ちょっとさびしい気持ちになったんだけど、ライブが始まり、歌いだしても、フランク、全然そっちを見ない。いらないじゃん、じゃあ。なんで置いてるんだろう。
1回目のMCで、謎がとけました。「アー、マタ、トーキョーニ……(譜面台を見る)コレテ、ウレシイデス」。日本語でMCするためのカンペでした。
なお、30分くらいやったところで、「アー……ツギデ、サイゴノ、キョクデス」。「ええっ、もう?」とざわつくフロア。と、フランク、「オオオー、ノー!」。カンペの順番、間違えたようです。フロア、あったかい笑いに包まれました。(兵庫慎司)
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