●セットリスト
1.mix juiceのいうとおり
2.オトノバ中間試験
3.桜のあと(all quartets lead to the?)
4.きみのもとへ
5.君の瞳に恋してない
6.オリオンをなぞる
7.I wanna believe、夜を行く
8.スカースデイル
9.静謐甘美秋暮抒情
10.mouth to mouse(sent you)
11.ドラムソロ
12.Phantom Joke
13.to the CIDER ROAD
14.場違いハミングバード
15.シュガーソングとビターステップ
16.箱庭ロック・ショー
17.フルカラープログラム
18.弥生町ロンリープラネット
19.春が来てぼくら
このご時世で、当初の予定通り活動できているバンドはもはやいないだろう。UNISON SQUARE GARDENの場合、4月に行う予定だった対バン形式のツアー「fun time HOLIDAY 8」が全公演延期に。そんななかで発表されたのが、2020年の活動における5大トピックスで、その一つが初の配信ライブ「USG 2020 “LIVE (in the) HOUSE”」だった。指定のURLにアクセスして開演時刻を待っていると、ライブハウスで開演を待っているときみたいに、サウンドチェックの様子が聞こえてくる。
イズミカワソラ“絵の具”が始まりを知らせてくれるのはいつも通りだが、舞台袖からステージへ向かうメンバーの姿まで映されているのは配信ならでは。一度ライブロゴが映ったあと、定位置についた斎藤宏介(Vo・G)、田淵智也(B)、鈴木貴雄(Dr)の姿をカメラが真正面から捉えた。1曲目は“mix juiceのいうとおり”。しかし音源通りではなく、サビから始まるアレンジだ。開始早々にして訪れる嬉しい驚きに、ああ、ユニゾンのライブってこうだったよなあ、と思い出させられる。最初の3曲を終えたところで、「MCなし、UNISON SQUARE GARDENです!」と斎藤。久々のライブだからといって、準備運動的な温いことをやるつもりはない。観客が目の前にいてもいなくても、自分たちがやることは変わらない。そんなバンドの気概が窺える。
観客のノリや盛り上がり様といった、自分たちでは操作しようもないところにバンドの本質を預けることなく、曲と演奏をひたすら磨き続けることに愚直であり続けたUNISON SQUARE GARDEN。配信ライブという特殊な環境が浮き彫りにさせたのは、そうして培われたロックバンドとしての強度の高さだった。
その「強度の高さ」を逆説的に証明する一つの材料になったのが、「ライブで聴きたい曲」を事前募集する企画だ。「ファン投票によるリクエストを元にバンド側でセットリストを決定する」 (=ファンの意向は汲むが最終判断をするのはバンド自身)とのことだったが、結果的に、18曲中16曲が上位20位内からの選曲 に。
ゆえに、ファンの願望が大枠で叶えられているわけだが、演奏力やアレンジ・曲順の妙で以って、こちらの予想や期待がビュンビュンと飛び越えられていく。例えば、曲間のセッションで馴染みあるリズムが飛び出し、“オリオンをなぞる”が始まる流れは特にアツかったが、そこから間0秒で“I wanna believe、夜を行く”に突入するアレンジにも不意をつかれた。因みに、“I wanna believe、夜を行く”は昨年行われたカップリング曲のみを対象とした人気投票でも上位を獲得している 影の人気曲だが、あまりにも急な展開のため、感慨に浸れる暇がない。そんなところも含めて心憎い采配だ。
セットリストのちょうど折り返し辺り、力強いドラムロールを合図に鈴木のソロがスタート。こんなに近くでドラムソロを見る機会なんて後にも先にもないだろう、とカメラワークに感謝していると、途中でスタッフが鈴木の頭部にヘッドセットカメラを装着。臨場感溢れるアングルに切り替わったかと思いきや、手数を増やして畳みかけたラストでは上空からの画が映された。そんなドラムソロの前後に演奏されたのが“mouth to mouse(sent you) ”と“Phantom Joke”。どちらも昨年10月にリリースされたシングルの収録曲だが、発売当時はカップリング曲のみを演奏するツアーをまわっていたため、ライブで演奏される機会は意外と少なかった。特に“Phantom Joke”、瞬発力も構築力も持久力も求められる、とんでもない曲だなあと改めて実感。
ここでやって来るのが“場違いハミングバード”、からの“シュガーソングとビターステップ”という黄金の流れ。「ワンツースリーフォー!」という勢いのよいカウント。ギターを高く掲げ、音源より気持ち長めに響かせる斎藤。感情のまま動き回っているがゆえ、マイクの前に戻ってくるのがギリギリ間に合っていない田淵。スティック回しを挟みつつ、気持ちよさそうな表情で演奏する鈴木。“シュガーソング~”間奏のコンボがバチッと決まった瞬間。その直後、エフェクターを踏む斎藤の足元を抜くカメラワーク。その一つひとつに「これこれ!」と言いたくなるような爽快感がある。しかしまだまだ止まらず。バンドロゴを背負いながらの“箱庭ロック・ショー”、真っ白な光に照らされながらの“フルカラープログラム”と、最初期曲が連続で鳴らされる。“フルカラープログラム”のラスサビでは、斎藤がマイクを通さずアカペラで歌い、《完全無欠のロックンロールを》という言葉をきっかけにバンドが合流する息を呑むような展開に。ここでカメラがぐるっと角度を変え、誰もいない客席が映される。観客がいてもいなくても、ロックバンドのやることは変わらない。裏を返すとそれは、たとえ目に見える範囲に誰もいなくたって、変わらず観てくれている人たちはいるのだと信じられている、ということなのかもしれない。
「今のでライブはおしまいです」(斎藤)ということで、ここで一旦一区切り。誰もいない客席を指した田淵はいつもと同じように目を輝かせていて、一仕事終えたように「ふぅ」と息をつく鈴木の表情からは充実感が滲み出ていた。今回のセットリスト、ボーカルがハイトーンを連発する曲が序盤に固まっていただけに、特に斎藤は苦戦を強いられていたんじゃないかと思うが、驚くことに、ライブが進むにつれて彼は調子を上げていく。プロとしての誠意と根性が表れたボーカルに心打たれたシーンは多く、特に1番まるっと斎藤の弾き語りで届けられた“スカースデイル”は素晴らしかった。
そのあとは「ここまで観てくださったみなさんに、ちょっとしたご報告なんですけども」と斎藤が切り出し、年内にリリースすると告知していた8thフルアルバム『Patrick Vegee』の発売日が9月30日(水)に決まったことを発表した。なお、「2度目の配信ライブ開催」など、この日は他にもいろいろと情報を解禁。詳しくはバンドの公式ホームページをご確認いただきたい。
「ここからはおまけ」と前置きしてからの17曲目には、アルバムに収録される新曲“弥生町ロンリープラネット”を初披露。その曲の「そして僕らの春が来る」というラストフレーズ(※筆者聞き取りのため正誤不明)を受けて、最後には“春が来てぼくら”が演奏された。アルバムの曲順もこうなのかは分からないが、よくよく考えると、2018~2019年に発表されたシングル表題曲はどれも異なる方向に尖っていたわけで。あの曲たちが1枚のアルバムのなかでどう並ぶのか、そこに他の曲がどう絡んでくるのかという点も含めて、『Patrick Vegee』がさらに楽しみになった。
というか、「まだまだこんなに楽しみがある」ということを思い出させてもらった気がする。世界が大きく変わっても、ロックバンドは生きている。そんな事実に希望を感じたのだった。(蜂須賀ちなみ)