カナダはトロント出身の6人組ハードコア・バンド、ファックト・アップ。こいつら、強烈なのはバンド名だけじゃない! 噂に違わぬ破天荒なライブ・パフォーマンスを繰り広げ、フロアを圧倒してみせた。
2001年に結成され、着実にハードコア・シーンでキャリアを積み上げてきたバンドだが、名門レーベル<マタドール>との契約をきっかけに、より幅広い音楽リスナー層に知名度が急上昇。バンドにとっての2ndアルバム(日本デビュー作)『ザ・ケミストリー・オブ・コモン・ライフ』は、米『SPIN』誌で年間ベスト4位に選出されたのを筆頭に、英『NME』誌や米人気サイト『Pitchfork』で19位になったりと、各方面から高い評価を得ている。加えて超パワフルなライブの模様も伝えられてきていたが、ついに初来日単独公演が実現した。
メンバー6名が颯爽とステージに登場し、さっそく『ザ・ケミストリー・オブ・コモン・ライフ』の冒頭を飾る“サン・ザ・ファーザー”からライブが幕開け。楽器隊は、ギタリスト3名、紅一点のマスタード・ガスがベースを(パンチの効いた名前の子だけど、ルックスはキュート)、そしてドラマー1名という編成。それだけに、ギター・アンサンブルの音の厚みが凄い。立ちはだかるものをなぎ倒していくような推進力満載のパワフル・ドラムと合わさって、空間がびっしり轟音で埋め尽くされていくかのよう。意識が吹っ飛ぶ。浸れば浸るほど、頭の中が真っ白に刷新されていく。快感。
巨漢フロント・マン=ピンク・アイズ(意外と小柄だけどボディは豊満!)は、力でねじ伏せるというよりは、聴き手に気合を注入していくような咆哮ボーカル。早くも頭にマイクのコードをぐるぐる巻きつけていくという謎の行動をとっているし(笑)。そのサウンドにもメンバー各々の醸す雰囲気にも、硬派なストイシズムからくる威圧感や緊張感はあれど、マッチョ的な高圧さがなく、不思議と親しみやすさを醸しているところが面白い。
2曲目“Circling The Drain”になると、ピンク・アイズは着ていた水色Tシャツを脱ぎ捨て、上半身裸に。ボリュームたっぷりのお腹と胸を揺らしながらフロアに降臨。マイク片手にシャウトしながら、男性オーディエンスをひょいと抱えて肩の上にリフティングしたり、逆にオーディエンスからビールをぶっかけられたり。丸テーブルを持ち上げ天板を外してしまったりと、やりたい放題。
アルバムで組曲構成をみせたりと多彩な音楽性を有する彼らだが、ライブでは焦点を絞ったアレンジ&選曲で、パンキッシュに盛り上がれる流れを作ってきている。ピンク・アイズは、曲が進むにつれビールの量もアクションもエスカレート。ズボンを脱いでパンツ一丁で、フロアを最後列までくまなく徘徊。床を這いずり回ったり、柵にのぼってみたり、オーディエンスにキスしたり、パーカーを着ている人をみつけては一人残らずフードをかぶせたり。頭には、なぜかプラスティック製コップ2つが触覚のようにカッピングっぽく張り付いたままだし。そんなフロアの混沌をよそに、ひたすらストイックに演奏を続ける楽器隊。その対照的な光景がなんともシュール。耳には爆音が飛び込んでくるし、目の前で繰り広げられる狂乱も並の意識では解析不可能。こんなライブ観たことない!
フロアとの濃密でダイレクトなコミニケーションを欲し続ける、ピンク・アイズの熱意と過剰さがオーディエンスの心を丸裸にしていく。今夜の場合、とにかくまず「あっけにとられていた」という人も少なくなかったけれど、今後さらに日本での人気が高まり、ぎゅうぎゅうのフロアで彼らを迎えることになったとき、とんでもない空間が生まれることになりそうだ。ロック・バンドのライブを愛する人だったら、是非一度はそのライブを体感してみて欲しい。そんなことを思わせる、究極のライブ・バンドの出現だ。(森田美喜子)
1.Son The Father
2.Circling The Drain
3.Magic Word
4.Baiting The Public
5.Twice Born
6.David Comes To Life
7.Black Albino Bones
8.Crusades
9.No Epiphany
10.Fate Of Fates
11.Crooked Head
12.Police
ファックト・アップ @ 原宿アストロホール
2009.03.10