バンド一体型のリフで転がす“She's a Genius”の後、ニックが「こんばんは、みんなようこそ!」と歓迎の挨拶を挟み、湧き上がるジェット・コールに合わせるようにクリスがまたビートを刻み始める。彼が率先して乾杯の音頭を取ると、フロアからは「俺もう脱いじゃってるよ!」と楽しげな声が上がり、ステージからは「おい、女の子たち、見てやれよ」とやり返すなど、距離感の近いコミュニケーションの時間が育まれる。情緒的なハミングのメロディで胸を掴む“Lazy Gun”のあと、ニックは「なんか静かだな」と呟いていたけれど、こっちは余韻に浸っているんだよ。強烈なサウンドとフラッシュライトがシンクロする“Black Hearts (On Fire)”の後には、オーセンティックなロックンロールでありながらもサービス精神旺盛なフックをそれぞれに手掛ける、ニックとクリスの作曲術が光る時間帯に。オーディエンスの合唱を導く“Seventeen”〜“Walk”〜“Look What You've Done”という、キャリアを見渡したグッドメロディの連打が素晴らしかった。ロックンロールは、勝ったり負けたり、立ち止まったり再び歩き出したりしながら、しなやかに経験を重ねていくのだということ。ジェットというバンドの懐の深い魅力は、必ずしも性急さや爆発力だけではなく、メロディの中にこそあると言っていい。“Come Around Again”では、キャムも熱唱でメロディを共有していった。
フロアの様子を写真に収めたニックは、タンバリンを手にとりシャラっと軽く振ってみせる。それだけで、オーディエンスは狂ったような歓声を上げる。最高のロックンロールの「予感」だけで沸騰してしまうのだ。マークのモータウンなベースラインにクリスのビートが重なり、キャムが「で、こうだろ」と一瞬のタメを効かせながらギター・フレーズを弾けさせる“Are You Gonna Be My Girl”。ここぞとばかりに熱くタイトに決めるパフォーマンスは、なんとも心憎い。ニックが真に満足げな笑顔を見せて再会を噛み締める言葉を投げかけ、完全燃焼の“Rip It Up”まで終盤を一気に駆け抜けてゆくのだった。ニックがアコギを携えて一人きりで再登場したアンコールは、もしかすると昨年のソロ・デビュー作から楽曲が披露されるのかと思いきや“Shine On”である。そのままギターを奏で続けるニックに、クリスが手にした煙草を一服吸わせて(絵になる兄弟だ)、ニックに負けず劣らずのシャウティング・ボーカルを放つ“Move On”へ。なびくオルガンの音色、そしてマークによるブルース・ハープもクリスの歌声に寄り添う。ロック衝動に忠実なジェットは、一度は潔く歩みを止めた。だからこそ、ジェットを求める声に応え、そしてジェットの楽曲に徹することが出来たのだろう。個々のプロジェクトの今後も楽しみではあるが、極めて健全なモチベーションに衝き動かされた、見事なステージであった。(小池宏和)
She's a Genius
Rollover D.J.
Lazy Gun
Black Hearts (On Fire)
Skin and Bones
Shiny Magazine
Seventeen
Walk
Look What You've Done
Kings Horses
Come Around Again
Bring It on Back
Are You Gonna Be My Girl
Put Your Money Where Your Mouth is
Take It or Leave It
Get Me Outta Here
Rip It Up
(encore)
Shine On
Move On
Last Chance
Cold Hard Bitch