前回来日が1979年だから、実に35年ぶりにして2度目の来日公演である。この日、日本武道館に集った1万人のファンの中には35年前のライヴにも参加していたかもしれない50代、60代のファンも数多く見受けられたが、20代~40代のファン、つまり今回の武道館で初めてボストンのライヴを体験するだろうファンはさらに多かったのではないか。筆者もそのうちの一人で、サード・アルバムの『サード・ステージ』(1986)がどんぴしゃ原体験で、“Amanda”の大ヒットで彼らを知った世代だ。ただしボストンの初期2作品、『幻想飛行』(1976)、『ドント・ルック・バック』(1978)は共に世界的モンスター・ヒットを記録したクラシックスで、こちらは世代間のギャップ云々を超えたハード・ロックの大定番として今に受け継がれている。そんなボストンの35年ぶりの来日であるから、つまり多くのオーディエンスにとって、今回が初めて伝説のロック・レジェンドのステージを目の当たりにする体験だったのだ。
今回の来日のきっかけは昨年リリースされた最新作『ライフ、ラヴ&ホープ』で、この日のライヴでも新曲は何曲かプレイされた。しかし、セットリストをご覧いただければ分かるように、往年のヒット曲満載のグレイテスト・ヒット・ショウだった。一筋のスポットライトの下でトム・ショルツがギター・ソロを掻き鳴らしスタートした1曲目は“Rock & Roll Band”。イントロで直径5メートルはあろうかという巨大な銅鑼をぶちかまし、それを合図に4人のプレイヤーが一斉にショルツのギターに音を重ね始める。のっけから驚かされたのはそのハイファイな音の響きだ。ハード・ロックの常套に則って爆音で歪みながらドライヴするギターが、矛盾した言い方になってしまうが、全く歪みを感じないくらい美しい放物線で投げかけられてくる。続く“Smokin’”では文字通りスモークが焚かれ、完璧なコーラスと華麗なシンセ・ソロでさらにハイファイ感を増していく。“Feelin' Satisfied”ではオーディエンスの一糸乱れぬ手拍子がベース、ドラムスに次ぐ殆ど第3のリズム楽器のように効果を発揮しているのが面白い。
「ボクラハボストンデス。ヨーコソミナサン、キテクレテドウモアリガトウゴザイマス」とショルツが日本語で挨拶。ちなみにステージ後方の巨大スクリーンにはMCの補足説明文が日本語で表示されるというサービス精神で、「次の2曲は新作『Life Love & Hope』からの曲です」という説明の後に“Last Day of School”、“Life, Love & Hope”の2曲がプレイされる。新曲はメロディアスでポップ、そして“Peace of Mind”は一転してド派手なシンフォニック・アレンジで、前半のクライマックスを記録する。バンドの紅一点キンバリー(Vo&B)のヴォーカルによるインタールードを経て、“Cool the Engines”ではショルツ以外のギター、ベース、ドラムス、キーボードの全てに見せ場が用意された言わばバンド紹介のようなパフォーマンスで、このバンドが超ド級の腕を持つプレイヤーの集合体であることが露わになった。
ボストンはトム・ショルツのほぼワンマン・コントロール・バンドであることは良く知られている。そんなショルツが率いる今回のバンドはゲイリー・ピール(G)、ジェフ・ニール(Dr)、キンバリー・ダーム(Vo&B)、トミー・デカーロ(Vo)、トレイシー・フェリー(B)の6人。ステージはショルツをコンダクターとして完全に制御・統率されており、バンドがはっきりと「頭(ショルツ)と身体(その他5人)」として機能しているのがステージを観ていると理解できる。ハード・ロックのポップ化とも、プログレッシヴ・ロックのポップ化とも言えるボストンのサウンドは、トム・ショルツという人によって完璧に計算しつくされ、エンジニアリングされ、デザインされたものなのだ。ゆえにそのライヴも、アドレナリン放出型のハード・ロック・ライヴとは全く異なり、むしろ演奏が白熱すればするほど彼らのパフォーマンスの細部に見入ってしまうような、ショルツの脳内を覗きたくなるような不思議な体験だった。
中盤は“Don’t Look Back”、“Amanda”、“More Than a Feeling”とスーパー・アンセム連発のセクションで、思わずそれまでのパフォーマンスに見入っていたオーディエンスも合唱と大歓声で応える。 “Walk On”ではゲスト・ボーカルとして米オーディション番組「アメリカン・アイドル」のファイナリストのシボーン・マグナスが登場し、スーパー・ファルセット・ヴォーカルで華を添える。“More Than a Feeling”終盤のジャム・セッションも長大だったが、この“Walk On”はさらに輪をかけて凄まじく、ヴォーカルのトミーは一旦ステージを退出し、器楽的快感に特化した10分近いインスト・パフォーマンスが続く。しかしそれすらも本来の即興性とはかけ離れた見取り図を感じさせるのがトム・ショルツという人の音楽であり、ボストンというバンドのプライドなのだと感じた。
ラストのメンバー紹介で「リード・ギター、キーボード、プロデューサー、エンジニア、そして全ての曲を書いたTom Scholz」と日本語字幕で表示されたのも、本当に徹底したボストンの「頭と身体」のバンド構造を窺わせるものだった。(粉川しの)
1. Rock & Roll Band
2. Smokin'
3. Feelin' Satisfied
4. Last Day of School
5. Life, Love & Hope
6. Peace of Mind
7. It's Been Such a Long Time Interlude
8. Cool the Engines
9. Surrender to Me
10. Don't Look Back
11. Something About You
12. Amanda
13. The Launch
14. More Than a Feeling
15. Instrumental
16. A New World
17. To Be a Man
18. Walk On
19. Get Organ-ized
20. Walk On (Some More)
21. Foreplay / Long Time
En1. I Think I Like It
En2. Party