【インタビュー】USインディ最重要バンド:ビッグ・シーフ、ネクストレベルに突入した最新作『ダブル・インフィニティ』で体現したものとはーー

【インタビュー】USインディ最重要バンド:ビッグ・シーフ、ネクストレベルに突入した最新作『ダブル・インフィニティ』で体現したものとはーー

いまやUSインディにおいて最重要バンドと呼ばれるほどの存在になったビッグ・シーフ。2枚組の大作となった22年リリースの前作は、間違いなく彼らにとってひとつの到達点であった。だが、昨年夏に初期メンバーのマックス・オレアルチック(B)が脱退を発表。緊密な関係性を基盤に活動をしてきた彼らだけに、その影響は少なくなかったはずだ。

そんななかで制作された6枚目『ダブル・インフィニティ』は、ニューエイジの大御所ララージをはじめとした多くのゲストを迎え、サイケデリックな感覚が強く加わった新境地となった。アメリカーナと革新的なサウンドをミックスすることを得意としてきたビッグ・シーフのさらなる進化を発見することができる。

今回インタビューに応えてくれたのは、初期からサウンドエンジニアとしてバンドに参加しているジェームズ・クリヴチェニア(Dr)。今回の変化について彼は、自分だけでなく全員の支え合いが不可欠だったと強調している。

アルバムタイトルの「ダブル・インフィニティ」は絆の強さを表す言葉であり、そのあり方を体現するものとなった。しなやかで優しく、温かい音楽がここにある。

(インタビュアー:木津毅 rockin'on 10月号掲載) 



【インタビュー】USインディ最重要バンド:ビッグ・シーフ、ネクストレベルに突入した最新作『ダブル・インフィニティ』で体現したものとはーー

●『ダブル・インフィニティ』は新しいサウンドに挑んだ作品だと思いました。昨年マックス・オレアルチックの離脱があったなかで、バンドとして新たな領域を探求しようという意識は強かったのでしょうか?

「そうだな……何か新しいことをやるのが目的だったわけではないし、意識的に新しいことをしようという感じでもなかったけど、ただひたすらフィーリングに従うというか。マックスが去って3人編成になったから、『自分たちの音って何なんだろう?』ってことを改めて探っていった。3人でたくさん曲を書いて、いっしょに演奏して、自分たちはどんな音楽を作りたいのかを考えたり夢想したりしながら。あらゆる可能性があるなかで、一番ワクワクしたのが、バンドを少しオープンにして、いろんな人や声を招き入れることだった。小さくなって凝縮されたトリオ編成でやっていくという選択肢もあったと思うけど……まぁ、いつかはそういうトリオアルバムも作ると思うけど、今回素直に思ったのは、バンドが変わっていくというのは事実としてあって、マックスの代わりを一対一で置き換えるなんてできないし、何をどうしようが違うものになるわけだから、どうせならその違いを思いきり掘り下げて、楽しんで、ちょっと実験してみようじゃないかってことだったんだ」

●今回はアンビエントやダブの要素がより強くあるので、あなたの活躍が大きかったのではないかと感じたのですが、そこはどうでしょう?

「今回は本当に、全員の経験がいろんな要素に反映されていると思う。たとえば、このプレイヤーを呼ぼうとかNYでやろうっていうアイデアがまずあって、そしたらエイドリアン(・レンカー、Vo/G)が、『みんなにずっといてもらうのはどうか?』っていう提案をしたんだよ。実際のバンドみたいに、いっしょに作って、流れが生まれてくるっていう。たんにオーバーダブするだけじゃなくて。それは、彼女のソロ作での経験から出てきたアイデアだと思う。僕やバック(・ミーク、G)もそれぞれ自分たちの要素を持ちこんだ。プロデューサーのドム(・モンクス)も同様にね。それぞれがアイデアを出し合って、ブレストする感じで……本当に、4人で意見を出し合いながら進めていく共同作業だったね」

●アンビエントやダブの要素についてはいかがでしょうか?

「今回のセッションで話していたことのひとつが、『ドローンの要素はぜひ欲しいよね』っていうこと。それ自体が曲と曲の間を流れていくような、それでいてアルバム全体を包みこむような、テクスチャーを加えてくれるようなもの。実際それを基準のひとつとして収録曲を選んでいった部分も少しあったと思う。曲はたくさんあったんだけど、今回のアルバムにどれを入れるかとなったときに、最終的に採用した曲の多くにドローンの要素があったんだよね。それから僕らは全員ララージの大ファンで、参加してほしい人で彼が浮かんだときに、『彼がやってくれたら完璧だ!』となって。それでドローンが欲しいっていう部分で言うと、ララージがその精神というか、彼が普段から実践しているものを持ちこんでくれて、それが今作にとって本当に素晴らしい贈り物だったんだよ。マイキー・ブイシャスもドローンをやって、彼らが自分なりの音を鳴らして、それが命を宿して動き出した。それは、自分たちでは絶対に思いつかないようなものだったんだ」

●ビッグ・シーフとしてサイケデリックな要素が強いアルバムを作りたい気持ちがあったのでしょうか?

「そこもあまり意識してなくて、スタジオに入る段階ですでに曲は全部書き上がっていたけど、アレンジは全員で演奏しながらやっていったんだよ。よくあるパターンとしては僕とパーカッショニスト、バック、ベースのジョシュア(・クランブリー)、そしてララージとで、まずこれからやる曲のグルーヴと全体の雰囲気を探っていく。マイキーはドローンをやっていて。それでエイドリアンは他のシンガーたちとハーモニーをやって、そっちのアレンジに集中してもらうっていう。でも決まった方向性というのはなくて、みんなで『それいいね』『今のかっこいい』という感じで自然に決まっていったんだ。セッションに参加していたメンバーは全員リスナーとしてすごく優秀かつ、演奏者としてもすごく敏感で、そういった参加者のやり取りからごく自然に生まれたのが今作のサウンドなんだよ」

●今回、多くのミュージシャンが参加することで苦労したことや、逆に良かったことはありましたか?

「大変だったのは、やっぱりひとつの場所に全員に集まってもらうこと。あれだけの人数でセッションをやるとなるとスケジュールを合わせるのが一番の仕事で、事前にしっかり計画するのが大事だったね。全員の予定をうまく合わせるためには柔軟に考えることが肝心だったと思う。今回のやり方は本当に刺激になったし、また絶対にやりたいと思ってる。単純に、あれだけ大きなサウンドがリアルタイムで鳴っているというのが本当に楽しかったんだ」

●今回のアルバム全体のテーマやフィーリングについて、共有したことはありましたか?

「共通認識は持っていたと思う。アルバムのアイデアが形になりつつある段階で、不思議とそれ自身の重力が働き始めるというか、たくさん曲があるなかで、これとこれは相性がいいとかっていうのが見えてきて……『ダブル・インフィニティ』というタイトルはしばらく前から存在していたんだよ。それで、この曲はこのアルバムには属さないなとか、この曲は合ってる、これは要検討、これは絶対入る、という感じで見えてくる。アルバムを作るのってそこが楽しくて、その作品自体がまるで命を持ち始めるように感じられることなんだよ。それがどんどん形になっていって、こっちが驚かされることもあって。『あれ? なんかちょっと違うものになってきてるぞ』とか、『この曲はやっぱり合わないな、変えよう』とか。バンドメンバー全員の集合的な思考の力で生まれていく感じ。メンバーそれぞれが違う考えを持っていて、お互いの考えを理解しようとするなかで、だいたい真ん中あたりの地点で出会う。それを探るのがまたすごく楽しいんだよね」

●わたしは『ダブル・インフィニティ』をとても温かいアルバムだと感じました。少し大きい質問になってしまうのですが、いま世界が荒れるなかで、温かく優しい音楽をリスナーに届けたいという想いが、ビッグ・シーフにはあるのでしょうか?

「間違いなくあったのは、アルバムに収録したどの曲も、何かしらのエネルギーを返せるような曲を最終的に選んだんじゃないかってこと。それが優しさである場合もあるし、また違う感情だったりもするけど、共通して大事にしていたのは、このアルバムを聴いた人それぞれが、この世界で向き合わなきゃいけないことに対して、向き合うだけのエネルギーを持てるようなものにしたかった。アルバムを聴き終わったあと、壁を突き破れそうな気持ちになれるとか、聴き始める前よりも元気になっているとか、そういうものにしたかった。こちらを消耗させる傑作というか、『素晴らしいけど疲れた』ってなるような、聴いたあとにベッドに倒れこみたくなるようなものにはしたくなかったんだよね。だから、どの曲を入れるか決めるときも、どうアレンジするか考えるときも、つねに『何か返せているか?』『元気が出るか?』ということを考えていたんだ」

●ビッグ・シーフが今作で誇りに感じることは何でしょうか?

「個人的に一番誇りに思うのは、作るのがすごく楽しかったこと。セッション自体がすごく楽しかったし、本当に素晴らしい音楽的瞬間がたくさんあったんだ。ひとつのテイクを終えて演奏を止めたときに、みんなして『今のは……最高だった!』となったり。しかもあまりプレッシャーを感じずにできて、もちろんみんなすごく集中して全力でやっているんだけど、何と言うか、お互いを支え合う共同体的な雰囲気でスタジオが包まれていて、そういう雰囲気のなかでやれたことも誇りに感じる部分だし、その一部になれたことも嬉しかったし、そういう空気だったからこそ、あれだけたくさんの驚きの瞬間が生まれたんだと思うんだ」



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