StarFes.‘14 @ 幕張海浜公園 StarFes.’14 特設会場

StarFes.‘14 @ 幕張海浜公園 StarFes.’14 特設会場 - Nas pic by Masato YokoyamaNas pic by Masato Yokoyama
2012年から、春先に開催されてきた『StarFes.』が、今年はVICE JAPANの主催により9月開催。会場は第1回お台場→第2回川崎・東扇島の変遷を経て、今回は幕張の海浜公園である。入場は20歳以上が可で、至る所に喫煙スペースが設けられているのもこのフェスの特徴。DJブース付きのラウンジ型「StarLounge」や、見晴らしの良い櫓型「StarHills」も設置されている。開場時間の午前10時、専用の特設ステージでパフォーマンスをスタートさせたのはBOREDOMSだ。「20名のシンバル、8名のギター/ベース、6名のドラマー」とアナウンスされていた同心円フォーメーションで、アヴァンギャルドにしてプリミティヴなトランス空間を生み出してくれる。中央のEYEは、足元の台座がセンサーになっているらしく、全身の身振りで電子音を制御しつつバンドの統制を行う姿はまるでシャーマン。この強烈なサウンドで、朝一番に『Vision Creation Newsun』の“○”も披露されていた。

会場の中で最も大きなステージが、StarArena。ここでトップ出演を果たしたのはZAZEN BOYSである。“HIMITSU GIRL’S TOP SECRET”で始まったステージは、向井秀徳が海をみつめてドリンクを呷っている間にカシオマン・吉兼聡がスキャットでカウントを取り、突如演奏を再開するといったトリッキーな変態アンサンブルが今回も絶好調。個人的には“天狗”の披露が嬉しかった。続いてはthe band apartで、ビーチのロケーションにずっぱまりの心地良くテクニカルなステージはさすが。原昌和によるファルセットのコーラスや川崎亘一のギター・ループ構築が映える“Taipei”から、“Eric W.”でオーディエンスを跳ね上がらせる。そして、アブストラクトなヒップ・ホップの時間を練り上げ、ときに攻撃的に迫るアナログDJプレイで魅了したのはDJ KRUSH。ひたすら彼の手元を映し続けるヴィジョン映像も硬派で、ヒップ・ホップ/R&Bの大物洋楽アクトたちに繋いでみせた。

一方、ビーチの会場内でStarArenaと反対側に位置するのが、主にDJアクトを中心としたStarFloor。持ち時間一杯を使って丁寧にテック・ハウスの流れを生み出していたクール・ビューティ=ヴァン・クリフを皮切りに、リンドストロームのライヴ・セットは取捨選択の際立つ音作りと魅惑的でドラマティックな物語性の両立が見事。ハード・ハウス風のサウンドも絡めるアッパーなディスコが懐かしい感触のDJネイチャーに続いては、『StarFes.』連続出演のマーク・ファリーナが脂の乗り切った官能的なハウスでステージ最長のセットへ(さらにその後、StarLoungeでもDJ出演していた)。そしてマッシヴ・アタックのダディ・Gはワイルド・バンチ印を現在に伝えるダブ/トリップ・ホップ/ドラムンベースで、過去2回に電気グルーヴとして登場した石野卓球は質実剛健、かつ刻一刻と音像が変化してゆくミニマルだ。「踊り続けることで見える光景」を伝えようとする人だからこそのテクノが鳴り響いていた。
StarFes.‘14 @ 幕張海浜公園 StarFes.’14 特設会場 - Erykah Badu pic by Masanori NaruseErykah Badu pic by Masanori Naruse
さあ、StarArenaの後半戦は、米R&B/ヒップ・ホップ勢の豪華リレーである。M.I.A.の出演キャンセルは残念だったが、なんとエリカ・バドゥによる4年振りの日本でのステージが決定。開演時のバンドによる長いジャム・セッションはいつもどおりとは言え、フェスの舞台でなかなかエリカが出てこないとさすがにハラハラする。で、久々に見る巨大アフロ・ヘアを揺らし、紫のフチの眼鏡からチェーンを垂らしたエリカの登場に大歓声。『ニュー・アメリカ・パート・ワン』から“ザ・ヒーラー”を歌い、ソウルフルなシャウトで一気にトップ・ギアへと持っていく姿に圧倒される。一曲フィニッシュするたびに、なんと言えばいいのか、左上方向に向けて弓を引くようなポーズを決めて視線を釘付けにするのだが、その辺りもスター性全開だった。派手な柄の上着を脱ぐと、「BADU IN JAPAN 2014 AD」とプリントされたTシャツの背中には、黒字に赤の日の丸。両手でハートを作って“アイ・ウォント・ユー”に向かっていく。自らMPCを打ち鳴らし、凄腕バンドをコントロールしてライヴ感を演出するエリカ。クオリティと存在感は完全にトリのレヴェルだった。
StarFes.‘14 @ 幕張海浜公園 StarFes.’14 特設会場 - Pubilc Enemy pic by Masato YokoyamaPubilc Enemy pic by Masato Yokoyama
続いてはパブリック・エナミー。生憎と言うかやっぱりというか、フレイヴァー・フレイヴは今回も欠席で、DJロードを核にしたバンド・セット。オールドスクールでザラついたトラックを、バンドで思いっきりブースト・アップするパフォーマンスはサーヴィス精神たっぷりで、ブルース・ジャイアンツのギターをカヴァーしたり、“セヴン・ネイションズ・アーミー”→“スメルズ・ライク・ティーン・スピリット”の大ネタでカットしまくるDJロードの見せ場もロックだ。”ターミネーターX・トゥ・ジ・エッジ・オブ・パニック”、“ファイト・ザ・パワー”辺りのクラシックから近年の“フーバー・ミュージック”と、しっかりエンターテインメント性も踏まえながら“ブリング・ザ・ノイズ”で大盛り上がりに導くステージだった。フレイヴ抜きの“ドント・ビリーヴ・ザ・ハイプ”は正直、フック部分のこれじゃない感が否めないけれど、チャックDの声に触れるだけで大量にアドレナリンが分泌されるよう仕込まれて来た世代としては、今も元気なPEを観ることが出来るのは嬉しい限り。
StarFes.‘14 @ 幕張海浜公園 StarFes.’14 特設会場 - Nas pic by Masato YokoyamaNas pic by Masato Yokoyama
そして堂々のトリ出演はナズ。事前に、リリースから20周年の『イルマティック』再現ライヴとアナウンスされていたのだが、見るからにめちゃくちゃ気合が入っていた。DJグリーン・ランタンと2人きりのステージだが物足りなさなど微塵も感じさせず、歌詞を「JAPAN」に差し替えた“N.Y.ステイト・オブ・マインド”、「レペゼン!レペゼン!」の大合唱を巻き起こす“レプレゼント”、「ヒップ・ホップ・ミュージックは好きか? それなら君たちにジャズを贈ろう」と切り出される“ザ・ワールド・イズ・ユアーズ”。そして、「俺は本当にマイケル・ジャクソンが大好きだったんだよ」と、少年時代のマイケルの写真を背負い、加工された“ヒューマン・ネイチャー”にそのままラップを乗せる“イット・エイント・ハード・トゥ・テル”と名演が続く。『イルマティック』編が30分ほどで終わってしまったと思ったら、その後がまた凄くてヒット・チューンをメドレーにしてガンガン加速していった。最後は“ワン・マイク”からの“ステイ”。マイク一本でサヴァイヴしてきた男がまざまざと見せつける、渾身のステージであった。

来場者が20歳以上ということもあるけれど、音楽的にも世代のターゲットを見定めた印象のブッキングで(StarLoungeでは、シャーデーのラグジュアリーなリミックスがプレイされていたりするのも面白い)、フェス・ブームの中で個性を随所に感じられた一日だった。来年以降の開催にも、ぜひ期待したい。(小池宏和)
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