今年3月に発売されたシングル『I’M SO GREAT!』を引っ提げてのワンマンツアー、「WE ARE SO GREAT! ~俺たち、エライよね~」のツアーファイナルが、EX THEATER ROPPONGIで行われた。YO-KINGが「新たな楽しい遊びの始まり」と語った、デビュー25周年を迎えた真心ブラザーズによる新レーベル「Do Thing Recordings」の立ち上げ第一弾作品としてリリースされた今作のツアー。サポートに伊藤大地(Dr)と岡部晴彦(B)の2人を迎え、Low Down Roulettes(ローダウンルーレッツ)として全国20か所を回ってきたYO-KINGと桜井秀俊。ドラムとベースとギター2本という至ってシンプルなバンド構成は、真心ブラザーズの持つ円熟したロックな部分を引き出すのにまさにどんぴしゃなものだった。丁々発止のやりとりもありつつ、25年間培ってきたどっしりとした余裕が魅せるロックンロールを思う存分に堪能できたステージだった。

午後6時。MCハマーの“U Can’t Touch This”のSEに乗せてメンバーが登場すると、会場は温かい拍手で4人を迎えた。桜井が笑顔で挙げた片手を合図に、冴えわたるギターリフのイントロからの“消えない絵”でいよいよツアーファイナルの幕開け!サビではYO-KINGの伸びやかで渋みが効いた歌声が響き、序盤から六本木の地下3階には“高い空”“Sometimes時々”の真心ロックンロールが鳴り渡った。そして「ハロー、六本木!」という桜井の軽やかな挨拶から始まった“Son of the Sun”! まさに夏!というような明るく陽気なメロディーに観客も踊ったり手を上げたりと自由に楽しんでいた。YO-KINGの歌声と桜井の柔らかく温かい歌声の双方を楽しめた4曲を終え、「みなさん、ようこそいらっしゃいました!」とのYO-KINGの挨拶からメンバー紹介も兼ねたMCへ。桜井の衣装を「今日は最終日ということでドットも大きめに」と紹介したYO-KINGに対して、「皮ジャンは4曲まで!」と衣装ネタで返す桜井。MCタイムに入るや否や、着ていた皮ジャンを早々に脱いだYO-KINGは「4曲以上は致死量」と話し会場を沸かす。そして、岡部と伊藤を紹介し、「どうですか、このバンド最高でしょう?」と自信満々に話しながらチューニングをする桜井に、横からYO-KINGが「カラオケのくせにチューニングしてるふりしちゃって」と茶々を入れる。こういった二人の掛け合いが絶妙で、手を叩きながら笑う観客もいた。
そんな観客たちを生バンドのロックンロールライヴに連れ戻したのは、1996年リリースの『GREAT ADVENTURE』収録の“ふっきれてる”。10年近く前の曲でも決して色褪せることはないし、むしろ歌詞のシンプルさが新鮮に感じる。真心ブラザーズの曲は、決して難しい表現や、遠回しな表現を使わない。そして、その言葉の数々を胸のど真ん中にどかんと打ち込むパワフルなサウンドと、YO-KINGの歌声。そのバランスは、25年経った今でも変わらない真心らしさだ。そして、YO-KINGがハーモニカフォルダーをセットすると、ボブ・ディランのカヴァー“My Back Pages”が捲られる。《あのころの僕より今の方がずっと若いさ》と時代を懐古しながらも、今の自分に「もっとできるだろう」と歌うこの曲は、デビュー25周年目にレーベルを立ち上げ、これからも音楽と共に生き続けようとする彼らの前向きな人生を象徴しているように聴こえた。

そして伊藤のカウントから続いた新曲“わけ”。真っ直ぐで優しいラヴソングを歌うのは、桜井だ。新曲披露を受け、続くMCではYO-KINGが「ローダウンルーレッツでツアーを回りながら、続々と新しい曲ができております」と話し、さらに「25周年中には、新しいアルバムを出したい」と宣言。会場は大歓声と拍手で包まれた。すると、「で、(新曲の歌詞について)どんなわけだったの?歌詞にその答えはあったの?」というYO-KINGからのまさかの無茶ぶり質問にたじたじの桜井。そんな桜井の曲を「でもね、桜井さんのそういう嘘くさい純情ソングが真心の武器のひとつなんです」と身内ならではの冗談でフォロー。そして「桜井さんに負けないように」と、続いてYO-KINGが新曲“風をうけて”を披露した。テレビCMでは「ラララ」というコーラスで起用されているこの曲を「せっかくだから1番はラララで」と、2番以降に歌詞を乗せて歌う。晴れた日に口ずさみながら散歩をしたくなるような軽やかな曲だ。そして、そんな散歩道が辿り着いたのは“夕凪”の暖かい海の光景だった。《夕凪の海は全てを許して ぼくをやさしく包みこむ》という温かい歌詞が、岡部が弾くゆるやかなベースと桜井のギターの優しいカッティングの上で泳ぐ。ギターソロが導く長めのアウトロは、海を眺めながらぼーっとしている時のような贅沢な時間を観客に与えてくれた。そしてその時間は、“OH MERCI~Echo,delay & tremoloを添えて~”のワルツのテンポに引き継がれる。アコースティックギターとハーモニカ、そしてソフトなベースとハイハットの丸い音が、聴く人の心を大きな安心感で包んでくれた。


と、そんなゆったりとした雰囲気の会場を一変させたのは“マイ リズム”! ここで多くのバンドにサポートとして参加している岡部と伊藤の超巧テクが唸る。ソロ×4というように各人が好きにリズムを刻んでいるように思えても、決めるところでしっかりと、しかし楽しそうにコンタクトを取り合っている様子を見て、長いツアーを経たバンドの完成度を垣間見た。バンドを多く掛け持ちながらプロデューサー業もこなしている岡部と、SAKEROCKやサンフジンズ(奥田民生と岸田繁とのトリオバンド)でもドラマーとして活躍している伊藤。食べることが大好きだという2人に対してYO-KINGが「まさかこんなにエンゲル係数が高いとは」と話すと会場は爆笑!そしてここからローダウンルーレッツのテーマへ!ツアー恒例となったこのコーナ―は、SEで流れた“U Can’t Touch This”のメロディーに合わせて4人がそれぞれ一言ずつ言っていくというものなのだが、序盤でYO-KINGと桜井がW杯ネタで滑るというアクシデント(笑)。後の2人で持ちこたえるも、ファイナルでまさかの結果に終わったローダウンルーレッツ一行。ラストは元曲の歌詞をもじって「倦怠期です」と歌い終了。
しかし、そんな状況も、桜井の「真心ブラザーズのライヴで何が心強いってね、MCがウケるウケないは関係ないんですよ。なぜなら、次にこの曲をやればなんとかなるからです!」という超前向きな言葉から始まった1分半のキラーチューン“どか~ん”が吹っ飛ばしてしまう!確かにこれは心強いはずだ。そしてここから、まさにどか~んと加速していく!“I’M SO GREAT!”のサビでは会場全員が手を挙げてシンガロングで大盛り上がり。そこから“人間はもう終わりだ!”“東京ひとり”と真心ロックを掻き鳴らした後は“忠告”で少しブレイクしたと思いきや、そこから“紺色”“明日はどっちだ!”の軽快でポップなメロディーと自由自在に会場を染め上げていく。そしてラストは《だるいカンジ》とYO-KINGが放った歌声に反応して歓声が上がった会場に“スピード”を投下!息継ぎをする間も無いほどの言葉の襲来と、鳴り狂うギターとベース、そして火を点けたかのように加速し続けるドラミング! 曲の終りに向かってスピードを増していき、そのまま走り切っていってしまったというなんとも豪快なラストだった。
そして熱烈な拍手に再度呼ばれた4人がステージに戻ると、YO-KINGが「梅雨が終わると季節はなんですか?夏と言えば,真心ブラザーズにはすごいヒット曲があります。日本の国家予算の1/3はこの曲でまかなっています」と笑いを誘い、待っていました“ENDLESS SUMMER NUDE”! サビでフロアに波打つハンドウェーブが、これから訪れる暑い夏を感じさせた。そしてここでYO-KINGから、9/13(土)に行われる日本青年館でのライヴ公演、さらに11/21(金)に渋谷公会堂での「マゴーソニック2014」の開催が告げられると、会場からは大きな歓声が上がった。そして、話がひと段落してもなかなかギターを持とうとしないYO-KINGに対して、桜井が「君は寂しすぎてギターを持たないのかい?」と優しく聞く。その言葉にはっとしたYO-KINGは「…俺がギター持ったらツアーが終わっちゃうじゃない!」と、ラストを迎えることを惜しんだ。そして、そんな会場に広がる明るい笑顔を象徴するようにラストは“Keep on smiling”を演奏し、会場を温かい雰囲気でいっぱいに満たしてステージを去った。
と、思いきや! 会場が明るくなってからも鳴り止む様子のない会場に、アコースティックギターを持ったYO-KINGと桜井の2人が戻ってくる。まさかのダブルアンコールに観客は大きな拍手で溢れる喜びを表した。そこで演奏されたのは、“荒川土手”。《ああ 今日も一日が終わる》というノスタルジックな歌詞とメロディーを奏で、ツアーを振りかえるかのようにツアーのラストを切なくも温かく飾った。
25年という決して短くない歳月と共に、変わらぬロックンロールを届け続けてくれる真心ブラザーズ。そんな節目を迎えたツアーをあえてシンプルな構成でのバンドロックで挑んだことに、原点回帰とも言うべく「俺たちはまだまだやるぜ!」という気合いを見ることができた気持ちの良いライヴアクトだった。ツアーが終わっても、ロックを転がす彼らの旅はこれからも続く。(峯岸利恵)
■セットリスト
01.消えない絵
02.高い空
03.Sometimes時々
04.Son of the Sun
05.ふっきれてる
06.My Back Pages
07.わけ(新曲)
08.風をうけて(新曲)
09.夕凪
10.OH MERCI~Echo,delay & tremoloを添えて~
11.マイ リズム
12.どか~ん
13.I’M SO GREAT!
14.人間はもう終わりだ!
15.東京ひとり
16.忠告
17.紺色
18.明日はどっちだ!
19.スピード
(encore)
20.ENDLESS SUMMER NUDE
21.Keep on smiling
(encore 2)
22.荒川土手