──カワノさんの詞世界は、誰も見たことのない異世界とかではなくて、むしろ誰もが日常の中で感じること、経験することを鮮やかに言葉にしていて。歌っている「私」から、聴いている「あなた」に伝えるというよりは、聴いている側にとってもすぐに「私の歌」になっていく構図があるような気がするんですよね。カワノ さっきのルーツの話もそうですけど、自分が「この音楽を聴いててよかった」って思うタイミングって、「歌ってる人は私のことを知らないはずなのに、私のことを歌ってる」って感じる時で。そういう音楽が好きで、そういう音楽を自分の言葉で、歌で表現したい、っていう想いがあって。そういう部分は、明くる夜の羊の音楽に表れているのかなと思いますし。ライブでも、観てくれてる人の背中を押すとか「付いてこいよ!」っていう感じではなくて、そこにいる人たちの生活とか人生とかが続いていくようにというか、あなたがあなたのままいられるように、私たちはこの音楽をやってるよ、っていう気持ちがあるんですよね。──曲を作る時は詞先? 曲先?カワノ 曲先の時が多いです。私発信というよりは、ドラム・ギター・ボーカルの3人がゼロイチで曲を作るんですね。私の場合は弾き語りで、ふたり(クラシマ&ノグチ)の場合はDTMのオケで作って、そこに私が歌詞とメロディラインを乗せて。それをナツキが、「こういう構成にしたほうが世界が広がる」とかアレンジを指揮していって⋯⋯だから結構、みんなで作っている感じですね。ナツキ 表現方法については完全にお任せですけど、歌詞の表現に沿った曲調とか雰囲気であるべきだとは思うので、「これどういう感情なのかな」って聞いたりはしますね。あと、「もし、こういう感情をパッと表したいんだったら、もう1パターン聴きたい⋯⋯かな?」みたいなのをお願いすることも、ごくたまにありますね。でも、基本的には彼女の世界観を大事にしてます。──「歌と伴奏」「歌とバンドサウンド」という感じではなく、歌とバンドが分け難く一丸となって飛び込んでくる感覚はありますよね。ナツキ それはものすごく心掛けているところではありますね。歌を聴いて映像が出てくる、みたいなことは誰しもあると思うんですけど。それが問題なく再生されるように──しかも、できれば明くる夜の羊が思ってる映像が、みなさんが聴いた時にも同じ感覚で再生されるように、っていうのはかなり意識はしています。ノグチ 映像の話もよくしますし、食べ物に喩えたりもしますね。「そこのドラム、もうちょっとポッキーみたいにして」とか──。ナツキ (笑)。「そのドラムは、疲れた時に食べるしょっぱすぎる漬物みたいだから、一回お風呂入って出た時に食べるガリガリ君みたいな感じにして!」みたいな話をしますね(笑)。ノグチ 「おお、オッケーオッケー」ってやると、ガリガリ君になるんですよ、バンドが(笑)。周りの人はたぶん、何を言ってるのかまったくわかんないと思うんですけど(笑)。ナツキ それで何年もやってきてしまったので──。カワノ でも、たまにわかんない時もあります(笑)。「どういうこと?」みたいな。──独自の言語で、独自の方法論でやってるバンドだから、一般的なジャンルとかの枠組みにハマりようがないですよね。カワノ 確かに。めちゃくちゃ独自のやり方ですね(笑)。明くる夜の羊が思ってる映像が、みなさんが聴いた時にも同じ感覚で再生されるように、って(ナツキ)
──今回のメジャー1st EP『cradle』の中で最初に配信リリースされていたのが“ありふれた日常”ですけど──「ありふれた日常」っていうワードは普段、あまりポジティブな意味合いで使わないじゃないですか。「ありふれた日常を抜け出すためにどこかへ行こう、何かしよう」みたいな。だけど、この曲は「ありふれた日常そのものがこれだけ輝いてるんだ」って思わせてくれる曲だなあと思って。カワノ 言われてみると、そうかもしれないですね。5曲全部に自分たちらしさはあるんですけど、この曲は今まで培ってきた自分たちらしさが、いちばん強く出ている曲ですね。歌詞も、本当にささやかな日常の幸せを「こんなにも輝けるんだよ」って──落ち込んでる時って、誰かと会って「久しぶり!」っていう笑顔だけで嬉しかったりするじゃないですか。そういうものが、ちゃんとちりばめられてるのかなって。大それたメッセージではないけど(笑)。──ありふれた日常を肯定するために、ドラマチックな出来事を導入するわけではないんですよね。幸せの青い鳥を探し回る歌詞じゃなくて、「青い鳥はそこにいるじゃん」っていう。ナツキ それはカワノ自身の人生観が出ているのかな、という感じはしますね。基本的に、すごくポジティブなわけでもないんですけど、すごくネガティブなわけでもないし、いい意味で楽観的なところがあるので。たとえば、ありふれた日常の中で「お茶があったかくておいしい」ぐらいのことで、ちゃんとすごく幸せを感じられる人なので。その人柄がかなり詰まっていると思いますね。カワノ 歌詞を書くのに悩んだりもするんですけど⋯⋯悲観的になりたいわけでもないし、青い鳥をめちゃくちゃ羽ばたかせたいわけでもないし。ライブってすごくスペシャルな時間じゃないですか。でも、スペシャルな時間をスペシャルにしたいんじゃなくて、そのスペシャルな時間が終わったあとの、自分の長く続いていく人生を、もっと楽しめるように──もっと自分を愛せるように、っていうところに、言葉の面では重きを置いていて。「どうしたら等身大で、でも平凡にはならないようにするか」みたいなところには悩んだりしますね。──“線香花火”は、花火が落ちるまでの瞬間にグッとフォーカスする曲ですよね。カワノ 線香花火って、「夏」とか「浴衣」とか、そういうものをイメージしがちなんですけど。それを今の自分たちの中で表現するとしたら──昔から自分の持ってる想いがちっちゃく燃えてて、でもそれを忘れがちだったりするっていう時に、「線香花火に似ているな」って。打ち上げ花火とかに比べたら小さくて、ちんまりしてて、けどめちゃめちゃ熱い火花を散らしていて。今の自分たちの持っているもの、いちばん深いところにあるものに近い表現が生まれたかなって。ライブのスペシャルな時間のあとに続く人生も、もっと楽しめるように──もっと自分を愛せるように、っていうところに重きを置いてる(カワノ)
──全5曲のEPですけど、アルバム的な広がりと奥行きのある作品ではありますよね。リード曲の“ルミナ”も、リズムの躍動感が重要な要素だと思いますけども。ナツキ これは彼(ノグチ)が最初に作ってきて──。ノグチ 今回のEPは、5曲ともリズムが、それぞれノリが違うビートの曲になったなって。喜怒哀楽が歌だけじゃなくて、リズムでも表現できてるのかなと思いますね。
──みなさんそれぞれ、「この曲のここを聴いてほしい!」というポイントを挙げるとしたら?ノグチ 僕は“春夜風”ですね。サンバキックっていう、ちょっとシャッフルになってるリズムから始まって、ちょっとハネてる曲なんですけど、ハネてるわりには切ない曲で。春の涼しい夜に散歩したりすると感じる切なさにリンクする感覚がある気がするんですよね。クラシマ 僕はやっぱりギタリストなので、“グッドラック”ですね。この曲に関しては、新しいことをやってみたいなと思って。リードギターに対して、ジャズの要素とか、ジャズの音使いの動かし方を取り入れた曲で。ギターロックの中に、ジャズのテイストを使ったら、どんな感じになるのかな?って。ギターソロとかイントロは結構、そういう音の当て方をしてますね。──ナツキさんは?ナツキ 難しいですね⋯⋯今回はアレンジというか、「映像として再生されるか」みたいなところで、全曲めちゃめちゃ頑張ったので、選べなくて⋯⋯。でも、やっぱり“線香花火”ですかね。楽曲として没入できるような感じにもしてありますし、線香花火の儚さも出しつつ作ってあるので。カワノ 今回、いろんな声の表情を5曲で使い分けていて。自分だからわかりやすいっていうのもあるかもしれないですけど、流して聴いた時に「みんな違う声色だな」って思って。そういうふうに、喜怒哀楽いろんな視点から日常を、ボーカリストとして描けているのではないかと思っているので⋯⋯全曲!(笑)──歌だけじゃなく、バンド全体の表現として、曲ごとに感情と想いを持っているEP作品だと思いますし、8月のリリースツアーも楽しみです。明くる夜の羊として、現時点で抱いている目標は?カワノ 当初から掲げている目標は、「Zeppワンマンツアーをして、しっかりソールドアウトして、そこから大きくなっていく」ことで。驕らず地道に、自分たちらしさを持ったまま──でもゆっくりもしていられないというか。限られた人生の中で、届けられるところまで届けたいですね。