TVアニメ『CITY THE ANIMATION』オープニング主題歌である“Hello”は、昨年7月のリリース以降、アニメを彩るだけでなく、世の中を照らす楽曲として広がりを見せた。《雨は上がって》というサビ頭のフレーズに、本当に雨を跳ね退けるくらいのエネルギーが宿ったのは、Furui Rihoという人間がこのメロディ、アレンジ、声、表情で表現したからだ。
日々たくさんの楽曲がリリースされている中で、爆発力を持つ表現と、そうでないものと、その差は一体どこから生まれてくるのだろうか。このインタビューでは、そのひとつの答えをFurui Rihoが自身の実感から語ってくれている。それを説明するうえで、例として『M-1グランプリ』の話が出たのもまた面白い。
インタビューの後半では、最新アルバム『Letters』が完成するまでの道のりについて訊いた。アルバムには、親しい人への手紙や日記のような個人的な歌が並んでいる。そのテーマ自体は数年前からあったものの、完成するまでは心の中で過酷な戦いを繰り広げていたという。1%の希望を信じて仮面を打ち砕くことができたFurui Rihoの道標をもとに、1%の希望を手の中から逃さないためのエネルギーを手紙のように贈り届けてくれるのが、この『Letters』というアルバムだ。
インタビュー=矢島由佳子 撮影=オノツトム
──前回インタビューしたのがTVアニメ『CITY THE ANIMATION』の初回放送の数日後で、「“Hello”にはすごい力が宿っているぞ」という話をしましたよね。そこから実際、どんどん曲が育っていって、Rihoさんのキャリアにとっても間違いなく大事な曲になったと思います。ツアーの最後に演奏した時も、「決して悲しい曲ではないのに、なぜこんなにも泣けるのだろう」と思いました。Rihoさんにとって、どんな景色や感情を見せてくれる曲になったと感じていますか?全部の辻褄が合って、人が見えて、筋が通っていたら、説得力が出ると思う。最近はそういうことを意識して、嘘のない音楽を目指している
いやあ、ちょっとあの曲以上のものを書けないです。リハーサルで歌っている時から、毎回感動するんですよ。バンドメンバーも、リハの時点から楽しさや高揚感を感じているような演奏と表情をしていて、本番じゃないのにここまで曲で持っていけるんだっていうのが不思議で。あの子(“Hello”)は特別な才能を持って生まれてきたっていうことを歌うたびに感じますね。
──今日の取材のテーマのひとつは「なぜFurui Rihoの音楽には特別なエネルギーが宿るのか」にしたいと思っていたんですけど、“Hello”が持っている曲のパワーは、どうやって生まれたものなんでしょうね。
どれだけ歌詞に向き合ったか──みんながどう捉えるか、このひと言でどう思うか、これで傷つかないか、元気をもらえるかとか、細かいことを考えながら手紙を書くみたいに綴って。そういう丁寧な作業の中で楽曲への想いは膨らんでいくし、それをするから歌っている時にも真心を込められると思うし、それが身振り手振りや表情にも出るという。でもそもそも“Hello”は急に降ってきた曲なので、「あなたはこの曲で進みなさい」ってプレゼントをもらって歌っている感じがしていて、自分がすごいとはまったく思ってないんですよ。この曲はこの世に生まれるべくして生まれてきたということをすごく感じているから、自分の力だとは一切感じていないんですよね。
──論理を飛び越えたところにある音楽の力を私も信じているけれど、最初におっしゃったように、一つひとつの言葉をいつも以上に丁寧に選びながら書いたというのはきっとものすごく重要ですよね。
そうですね。一緒に作ってくれたknoakとSayoさん(Sayo Oyama/Furui Rihoのゴスペルの師匠)と、ミュージシャンの皆様一人ひとりの能力の高さが、全部合致して紡がれていったというか。「そりゃパワーが出るよね」と思う要素が積み重なって出来上がった感じがします。そうやって全部がリンクした時って、パワーが倍増すると思うんですよ。⋯⋯『M-1(グランプリ)』、見ました?
──毎年、見てます。
去年、面白かったですよね。たくろうが優勝したじゃないですか。他のお笑い芸人さんが「いい漫才には人が出ていて、人柄や人間性が見える」みたいなことを『アナザーストーリー』(『M-1グランプリ2025 アナザーストーリー』)か何かで言っていたんですよね。エバースも、彼らの人柄があるからああいう漫才になって、ふたりの間柄だからああいう話し方になる。全部の辻褄が合って、人が見えて、筋が通っているから、めっちゃ面白く感じるんだなと思って。音楽もそうだと思っていて、いろいろな要素が、点と点が線になるようにしっかり繋げられたら、説得力が出ると思う。最近はそういうことを意識して、嘘のない音楽を目指していますね。
──それはまさに『M-1』を見て思ったことでした。たくろうも、普段から目が泳いだりする赤木さんの人柄があって、それをベースにしたネタだったから、あれだけ爆発したっていう。キャラを演じるんじゃなくて、自分の人間性や個性をどう繋いで見せるかが大事なんだって思いましたよね。Rihoさんの中でも、それができるようになってきた感覚がある?
ちょっとずつ見えてきた感じ。まだまだいけそうですけど、自分らしさを主軸にちゃんと繋いで表現できるようになってきている感じはあるかも。
──ゴスペルという要素がRihoさんをJ-POPシーンの中で唯一無二な存在にしていると同時に、そのサウンドを“Hello”で選んだこともFurui Rihoらしい力を爆発させる、いわゆる「点と点を繋げた」重要なポイントなんじゃないかと思っていて。「Furui Rihoにとってのゴスペル」というジャンル、音楽性については、どんなふうに考えていますか?
やっぱり私はゴスペルなんだなって思いました。みんなに「Furui Rihoはゴスペルだよ、これだよ」みたいなことを言われるし。自分はどういう音楽をやるべき存在であるかをずっと模索してきて、いろんな曲に手を出してみたけど、結局帰ってくるのはゴスペルで。ゴスペル・クワイアで歌ってきた強みを生かして、自分らしさを出すのがいいんだなって思いました。教会で聖書やそういう心をもとに歌うことを大事にする人たちのところで育ってきたので、筋が通っているというか。あまり通ってきてないジャンルの音楽をなんとなくかき集めて作ったものより、ゴスペルがどういうものかを知っていて、それを昇華して築き上げた音楽のほうが芯もあって筋が通っていると思う。それが自分の個性だと思うし、自分らしさとして置くべきなんだっていう発見が、最近はすごくありました。
──前回のインタビューの時に「これからアルバムの曲をたくさん作らないといけないんですよ」とおっしゃっていましたけど、去年7月以降、制作はスムーズな感じでした?誰かのために書くってすごいことなんだと気づいて。誰かに向けた手紙たちを集めて渡せば共感してくれる人がたくさんいるかもしれないと思って、『Letters』を作り始めた
いやあ、地獄でした⋯⋯つらかったぁ。スッとできた曲もあるんですけど、いろいろ考えることもあって、なかなか歌詞ができなかったりして、結構しんどかったですね。
──歌詞を書けなかったのは、何が要因だったんですか?
「自分に嘘をつかない」「体の中で巡っているものをそのまま出す」ということを改めて思うようになっていたのもあるし、やっぱり自分の理想も高くなるから、そこを乗り越えていくために自分に厳しくもなっていただろうし、より深く向き合おうとするし⋯⋯あと、いい子でいすぎたのかも。もっとエゴでいいし、自由でいいし、とんがってもいいのに、「売れなきゃいけない」「よく見られたい」ということに無意識的に引っ張られていたというか。
──アルバムの新曲たちは、『Letters』というタイトル通り手紙でもあり、日記でもあるような、本当に個人的な歌になっているのが面白いなと思いました。“Hello”以降、「売れなきゃいけない」「よく見られたい」という気持ちが出てくるのは当然なはずで、でもそこで個人的な歌に向かっていったのが大胆であり素敵な選択だなって思ったんですよね。でも今の話を聞くと、そういう曲こそが嘘のないものであり、そこにパワーが宿るんだという思いがあったからだったんですね。
本当に、まさにそうで。“LOA”は妹に書いた曲なんですけど、あれもすごいパワーを持っていて。妹だけじゃなく他の人にも伝わっていることを実感して、しかもみんなが知ってくれる曲になって。誰かのために書くってすごいことなんだと気づいて、パーソナルに誰かに向けた手紙たちを集めてみんなに渡せば共感してくれる人がたくさんいるのかもしれないと思って『Letters』を作り始めました。
──そのテーマはいつくらいから思い浮かんでいたんですか?
2024年かな。このアルバムの中では“言えないわ”がいちばん古いんですけど、それくらいの頃から構想していました。だから“Hello”も、《Hello, Dear my friends》から始まりますしね。
──ああ、もうそんなに早い時期から考えていたんですね。1曲目の“ハードモード”も、《この曲がどうやら/アルバムのリードに/なるみたいね》なんて歌詞をポップスで初めて聴きましたけど(笑)、曲ができないことをそのまま嘘なく歌詞にしていて。これにGOを出せるのも、またひとつ今のRihoさんの強さだなと思いました。
本当にそう。自分の中にエゴでアーティストなFurui Rihoと、世間体を気にしてきれいに商品化しようとするプロデューサーみたいなFurui Rihoっていうふたりがいるんですよ。前者が強ければ、こういうよりリアルな、自分の深いところの歌詞が出てくるんですけど、後者が強ければ商業的なキャッチーなものになる。今回のアルバムは、前者の自由なほうがめっちゃ強いんです。でももうひとりの自分が「大丈夫か?」「これでいいのか?」って言ってくる。そのふたりがずっと自分の中で戦っているんですよ。だけど今回の『Letters』は温かくて、よりリアルで、パーソナルなのがテーマだから前者に舵を切って、“愛泣きて”みたいな今までにないバラードとかも作っちゃったりして。ただ、温かいものを作ろうと思っていても、ギザギザの部分をカバーしてきれいにしたがるのが後者の役目で。⋯⋯そういう戦いをずっとしていました。