──そのあとメジャーを発表して一発目に聴かせたかったのが“群青逃避行”だと思うんだけど。 “未完成に瞬いて”と“群青逃避行”もまったく違うフェーズに入っていて、これは結構驚きました。これはどういう覚悟で作った感じなの?“群青逃避行”は自分の中の強引さが出た作品だなあと思います。こっからは捨て身で行くぞっていう
まずおいしくるメロンパンであり続けたいなって気持ちが強くあって。それは、このバンドをはじめたときの自分が聴いて痺れるような曲をずっと作り続けたいなっていうのがあって。そういう気持ちで作ったのはあります。
──はじめた頃の自分が安心するような曲ではなく、痺れるような曲だった。昔の自分の期待を裏切ってないけど、カマしてるわけですね。
そうですね。そのときの自分にはできなかったことが曲の中に要素として入っているのは必要だなって思いますし。お客さんも、今までたくさん出してきたものを聴いてくれていて、それと地続きのものだという安心感はもちろんありつつ、今までになかった要素も含まれているところに痺れるという。どっちも必要だなと思いますね。
──これって今までのおいしくるメロンパンのグルーヴとアンサンブルの向いている方向が違うと思う。今までの、あんまり目が合っていないんだけど、ちゃんとグルーヴが合ってる感じとも違っていて、向いている肉体の方向が一緒な感じがする。
あー。
──明確なバンドの立ち姿の変化をめちゃくちゃ感じる。
確かに今まで以上の攻撃性があって。たとえばメジャーデビュー以降のおいしくるメロンパンに不安を持ってる人がいたとしても「じゃあ、ついていくよ」って思わせる何かを与えないとなって思っていたので。メジャーの一歩として自分が納得できるものってどういう曲かなっていうのがあって。いちばん自分の好きな曲調というか、聴いていて痺れるようなものを作んなきゃ意味ないなって思っていたので。ずっとやってきたオルタナで高速のロックをここで満を持してやるのはいいだろうなって思ってたし。自分たちなりの王道でまずは踏み出そうっていうのはありましたね。
──最初の話に戻る感じがするけど、この曲も《海へ行こう》からはじまるじゃないですか。でも今までの《海へ行こう》とは違う気がする。“look at the sea”“波打ち際のマーチ”の次の第三段階なんだけど、今回の《海へ行こう》は自分なりに言うとなんなの
今回の《海へ行こう》は、今までの「鍵開けといたから入ってきていいよ」じゃなくって無理やり連れてくというか、引き込んでいくみたいな、自分の中にある強引さが出た作品だなあと思いますね。ずーっと現実逃避みたいなものの先、現実逃避先になれたらいいなって思って作品を作っていたところがあったんですけど。それをこっちから引っ張り込んであげるみたいな。もう一歩だけ相手側に踏み込んでいってみようかなっていう。
──たぶん思想とか人格は変わっていないんだけど、トイズファクトリーからメジャーデビューすることになって人生観が変わったということなんだろうと思う。
うんうん。
──その結果、聴き手への向き合い方も変わって。今まではインディーズのおいしくるメロンパンは逃避できる安住の地を作っていたんだけど、ここからは海原に一緒に泳いで逃避していこう、生きていくってそういうことだからっていう。それって人生観が全然違うじゃないすか。
そうですね、確かに。
──自分が行きたい道を選んでいた結果、そうなったから、そんな大げさなことではないかもしれないけど、結果、全然違う生き方に変わったよね。
そうかもしれないですね。結局は今までは現実と片足ずつ立ってたのが、こっからは捨て身で行くぞっていう意思表示もあると思います。
──今まで好きだった人の人生観を変える力もあるし、今までのおいしくるメロンパンとは生き方が違った人たちも巻き込むパワーを持っている曲だと思いますね。
確かに、そうですね。
野音が終わってめちゃめちゃ重い肩の荷がおりたと同時に喪失感みたいなものもあった
──野音の最後に“色水”をやったじゃない? 野音まで、今回のツアーでやってなかったよね。
やってなかったです。初めてツアーのセトリから“色水”を抜いて。単純に入んなかったんですよね。どこに入れればいいんだろうって。
──たぶん野音で“群青逃避行”を披露するってなったときに、“色水”の役割が出てきたと思うんだけど、その役割はなんだったの?
単純に、並べて聴いてほしかったっていうのがありましたね。メジャーでの第一歩と、このバンドの第一歩の曲。「変わったよ」っていうよりは「やってること、ずっと同じだよね」っていうところなんですけどね。
──たぶん今回のライブにおいては、“群青逃避行”以外に“色水”と対になるものがなくって、セトリから外れたと思うんだよね。“色水”の質量が特殊だから。でも“群青逃避行”は初めて“色水“と対になる質量があって。
確かに。
──改めて“色水”って長年の呪縛だったんだなっていう気もする。
ははははは。そうですね、あれがなかったら、全然違うバンドになってたと思いますね。
──“look at the sea”の呪縛はロジカルに対応できる呪縛な気がするんだけど、“色水”の呪縛は肉体で答えを出すしかなくって。“群青逃避行”は違う生き方になるぐらいの肉体的な変化が起きているから初めて呪縛に対抗できる武器ができた感じがする。
なるほど。そうですね。
──この日の“色水”は格別だったんじゃない?
いや、そうでしたね。いろんなことがフラッシュバックして格別だったかもしれないです。いつもツアーが終わった瞬間は、こんなに重いものを背負ってたんだなっていうのがあるけど、今回は特にそれを感じたというか。ほんとにめちゃめちゃ重い肩の荷がおりた感じがあって。でも喪失感みたいなのも同時にあって。
──そうだろうね。
このセトリでもうできないのかとか。でも、すがすがしかったですね。
──このおいしくるメロンパンが観れるのは最後だろうね。ほんとに片道分の呼吸でどこまで泳いでいくかっていうおいしくるメロンパンになると思うし。変わらない部分は変わらないだろうけど、やらなかったことをたくさんやっていくことにもなると思う。『bouquet』という新しいミニアルバムを待っている人に今、言えることは?
改めてロックファンである自分を痺れさせるようなアルバム、初心に立ち返ったものを作っているし、素直にかっこいい作品になってるんで、楽しみにしてほしいと思います。
ヘア&メイク=栗間夏美
おいしくるメロンパンは4月30日発売『ROCKIN'ON JAPAN』9月号にも登場!
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