──そんな中で今回“Strawberry”という、LAST的にめちゃくちゃ新鮮な曲が出てきたわけなんですが。これは今の話をふまえると、あきくんにとってはどういう位置づけの曲?“Strawberry”は自分の恋愛詞の中ですごく新しくもあり、奇妙なものでもある。「俺の中の違う俺が書いたのかもな」っていう感覚です
僕の中では“Strawberry”は自分の恋愛詞の中ですごく新しくもあり、奇妙なものでもあると思っていて。「俺の中の違う俺が書いたのかもな」っていう感覚です。今までの僕のスタイルでは、どれだけ人に簡単に伝わるかを意識して、ひと目見ただけで「こういう歌詞なんだね」ってわかるものをストレートに、シンプルに書いてきたんですけど、この曲は本当のところを掴ませない歌詞というか。恋愛詞ではあるけど、恋愛詞でもないかもしれないみたいな。「え、これなんなの?」っていうものができたのかなと思います。だからすごく奇妙な感覚なんですけど、「いい曲書けたな」っていう感覚もありました。
──本当その通りで、今までの菊池陽報の文体にはなかった曲だと思う。メロディも歌詞もどこか淡々としているというか、あえてドラマを作らない感じというか。これはどういうふうにできていったの?
“Scoop!”を書いてたとき、曲が全然出てこなかったんです。“Scoop!”はタイアップで曲作りに縛りがあったんで、1回自分から素直に出てくるものを何にも縛られずに書こうと思って。“Scoop!”を書けないことのフラストレーションで、休憩のつもりで書いたら出てきた曲が、この“Strawberry”でした。だからといって、気持ちが“Scoop!”と似ているとかはないんですけど。この曲は、最初から歌詞も決まっていたかのようにすらっと書けたんです。書き終わった歌詞を最初に見たとき、自分でも「俺は今、何を思ってるんだ?」みたいな感じではあったんですけど(笑)、自分を見つめていくと一つひとつの言葉に「なるほどね」って納得できる部分もあって。それこそ、いろんな自分が今思ってることをちりばめられたから、こういう掴ませないような歌詞になったんだなと思いますね。
──それは面白い。印象としては逆だと思ってた。“Scoop!”のほうがサラッとできて、むしろ試行錯誤しながら作ったのがこの“Strawberry”だったのかなって。
“Scoop!”はもともと“恋愛凡人は踊らない”っぽさを求められていたのもあって、そう言われたら“恋愛凡人〜”を超えなきゃって思うし、なおかつ応援歌みたいなものにしたいという気持ちもあったんです。でも、その畑は僕は持ち合わせていないものだったから、不利な状況の中で戦っていたんですよね。逆に“Strawberry”は今の自分の葛藤していること、悩んでいることが本当にストレートに出たし、自分がいいと思っている新しいものが作れました。この曲が生まれて、やっぱり俺はちゃんと成長してるんだなって思えました。いろんなものに対して悩んで、でも1個ずつ段階を踏んできてはいるんだなって。
──今日ここまで話してくれたことが全部“Strawberry”には正直に出ている感じがするよね。これ、全然答えが出ない、ずっと考えているような歌詞じゃないですか。
そうですね。内省的な歌詞よりは情景が浮かぶ歌詞のほうが今のLASTを作ってきてくれていると思うから、そういうものを書いていこうと思っていたんです。でも、内省的な歌詞も今のLASTにとっては大事なのかもなと思って。
──サウンド的にも、バンド的じゃないというか、めちゃくちゃミニマルですよね。世の中に自分の曲が認められたことはまだないと思っていて。どうやったらもっと自分の曲が届くんだろうっていうのが、すべての原動力です
歌に譲りまくっていて、てるも最後の8小節しか叩かない。だから、ライブでやるのは怖いんですけどね。この曲の時間の中で、曲のストーリーを紡ぐのはほぼ俺なわけじゃないですか。観る側からしたら普通に見えるかもしれないけど、俺の気持ちとしてはLASTはバンドとして戦ってるんで、この曲の8割を俺が表現して、最後にてるとよっしーの3人で鳴らして、納得できるクオリティや説得力を持たせて完結させるという──とてつもなく緊張感のある難しい曲ではあるなと思います。でも、今の僕にいちばん近い楽曲でもあります。
──しかもこの、きわめて斬新で挑戦的な曲が『キミとオオカミくんには騙されない』のBGMとして流れて、SNSではちゃんと盛り上がっていて。
でも、そうやってSNSで使ってもらえるのは嬉しいですけど、そもそもTikTokとかを想定して書いた曲ではなかったので、そういう曲はそういう曲としてちゃんと狙って書いていかないとなって淡々と考えている感じです。そういう部分に一喜一憂するのが怖いというのもあるし。
──でも、番組でこの曲が流れた瞬間に、みんな「LASTの新曲だ」って気づいてたじゃん。ちゃんと届いているんだなって思ったけどね。
それは嬉しかったし、すごいことだなと思います。ちょっと流れた瞬間に気づいてもらえたっていう。それこそ桜井さんの声もちょっと聴いただけでわかるじゃないですか。そういうのが僕にとっての理想のボーカル像なので。
──ミュージックビデオも、抽象的だけど素晴らしい映像になっていますね。
本当に。あの映像を観て、またちょっと怖くなって(笑)。こんなにいい映像を観てライブに来たらめっちゃ期待値上がるな、どうしようって思ってます。しかもこの曲は俺がほとんどなんで、俺がミスったら全部終わりだから。
──大丈夫だよ(笑)。
ステージに上がると自分に対して大丈夫って思える瞬間があるんですけど、ステージを下りるとそう思えないんですよね。すべてが奇跡の上で起きたことだったなって思っちゃうぐらい。もはやステージにいる自分は別人みたいな感じにも思ってます。まだ前向きには考えられてないかもしれない。
──というか、“Strawberry”はまさにステージを下りているときのあなたが出ている曲だからすごく魅力的なんだと思うよ。そしてそれを見せることでThis is LASTはさらに愛されていくんだと思うけどね。
そうですね……そうなるんですかね?(笑)。本当にいろんな人に愛してもらってるなっていうのは思うんですけど、世の中に自分の曲が認められたことはまだないと思っていて、そこは悔しい部分なんです。ただ、どうやったらもっと自分の曲が届くんだろうって思っているのが、すべての原動力ではあると思います。
──それは、それこそMr.Childrenの“抱きしめたい”とか“innocent world”レベルの話をしてるわけですよね。
そう。その曲を聴くためにスタジアムが埋まるっていうのはすごいことだと思うし、そういうバンドでありたい。もちろんストリーミングでたくさん回ることもヒットだと思うけど、将来的に僕が書いたその1曲を聴くためにたくさんの人が来てアリーナが埋まる、スタジアムが埋まるってなったら、それもヒットだと思う。そういう意味で、世の中に受け入れられる楽曲を書けるようにならないとなって思ってやってます。
このインタビューの完全版は、発売中の『ROCKIN'ON JAPAN』1月号に掲載!