──“ざらめき”、これはいい曲ですねえ。よかった。ありがとうございます。──クリープハイプのシングルは、タイアップの時は、必殺の切り口で「どうだ!」っていう感じで世間に放つ良さがあるんだけど。こういうタイアップじゃない曲の場合は、新しいアイデアやバンドサウンドとして進化した部分を盛り込んで、熱心なリスナーにちゃんと届けて、聴いてもらう感じだよね。そうですね。熱心なリスナーってところがやっぱり大きい。前まではタイアップがついてなくても盤でシングルを出してましたけど、それがなくなってからは、結果が出るまでに結構時間かかることもあるなと思って。なんていうか、ここ数年は、スクラッチくじみたいに結果を決められる印象があったんですよ。でも、こっちは一生懸命作ってるから、それってフェアじゃないなって思ってて。そこに対するいら立ちとか、疑いみたいなものがあったんですけど、考えてみると、それだけじゃないなと。それに──今回のツアーで久々にお客さんからのリクエストを募ったら、意外な曲が多かったんです。「これ聴きたいんだ?」みたいな曲がかなり支持されていて、ちゃんとお客さんの中に残ってることもわかって。ちゃんと待っていてくれて、曲として聴いてくれる人に届けたいと思った時に、配信だからこそやれることってなんだろうかと、結構じっくり考えましたね。一回聴いてすぐわかるような曲じゃないんですけど、自分の中で、これはやりたいなと思って作った曲なんです。4月に、小説の取材旅行で香港にひとりで行ったんですけど、なんかすごいよかったんですよね。海外にひとりで行くのも初めてで、楽しくて。この曲は、なんとなくメロの感じとかにそのイメージがちょっとあって、恥ずかしいなって思ったんですよ。「そんな影響受けるんだ?」みたいな。音楽活動において、どこかへ行ったり何か見たりして影響受けることって、なくなってたんです。それ以外の表現では結構影響を受けてますけど、音楽は自分の中で、よくも悪くもゆるぎないものだから。でもこの曲は、意外と影響受けてるなと思って、それも面白かった。だからこれを形にしたいなと思って、メンバーに聴いてもらって、結構時間をかけて作っていきましたね。──そのイメージっていうのは、いわゆるウォン・カーウァイ的な?そう(笑)。たまたま気になって『恋する惑星』を観直したりしてて。観ながらギター触ってたら出てきたメロディだったので、こんなベタなことを自分がするんだなと思って、その感じがちょっと恥ずかしいんですけど。でもそれがよかったですね。ミュージシャンとしての自分は、意外とかわいげがあるなと(笑)。で、なんとなく夏のイメージだったので──クリープハイプって意外と、夏の隅っこを担ってると思うので、そのど真ん中を行こうと──ジメジメした夏の感じだよね。それの決定版と言えるかもしれないね。そのイメージを膨らませて作っていって。ミュージックビデオも大事だと思ったので、芸人のやさしいズのタイさんに出てもらいたいなと思ってお願いして。そうやって、曲を作って以降のアレンジ、ジャケット、MVのイメージまで含めて自分の中で膨らませていく感じは、久しぶりでしたね。“キケンナアソビ”が1億回ストリーミングされたって聞いて、やっぱり行ったか、って。
5、6年経ってそれぐらい聴かれるって、すごく身の丈に合った感じがする
──クリープハイプぐらいのキャリアにおいても、個人的なきっかけで曲を作り、個人的なモチベーションで曲作りに没頭して、それを大事に育ててリリースするって、めちゃくちゃ健全だよね。久しぶりにそういうことをしましたね。誰に言われてるわけじゃなかったのもあるし、2月からツアーを回ってて、ライブをしながら自分たちのお客さんをずっと見てたので、それも大きかったですね。あとは、40歳ってのもデカいかもしれないです。30になった時より意識してるんですよ。“二十九、三十”って曲は一応作ってますけど、当時はあまり何も考えてなくて。──これ、40歳になって初めての曲?はい。アルバムの曲は去年の11月にできてたので、新曲は初めてかな。──何がデカいの?なんか、年齢のことを考えるようになりましたね。何をやるにしても、40ってことが振りになるっていうか。40なのにこれをやってるとか、40だからこれやってるとか。それは30代の時はなかった感覚で。細かいことを気にしなくなったな。流行ったものが可視化される世の中で、そこには引っかからないのに、でもお客さんはいてくれることに、もどかしさを感じてたんですよ。今はそれがなくなりました。──もどかしさが逆に自由に変わったんじゃない? 自信と自由に。やっぱり、ライブにお客さんが来てくれるから。事務所とかがしっかりしてて、音楽番組に出たりする状況が整ってるうえでライブにもお客さんが入るのとは、クリープハイプの場合また違うじゃないですか。かなり奥まったところにあるのを見つけてくれて来てくれてる実感があるから、それはもう、比べられないよなって思いました。だからこそ、曲が増えることにもすごく慎重になりましたし。書けば書くほど、ライブでやれない曲が増えていくじゃないですか。だから、「これ、ほんとに必要かな?」って考えるようになった。作ってから時間が経っても、演奏する時に「楽しいな」って思える曲がある一方で、そうじゃない曲もあるんですよね。そうじゃない曲ってどういう曲かというと、たとえば目先のタイアップで作った曲。まあ、それもその時の正解だと思ったものなので、否定はしたくないんですけど。でもやっぱり、残っていく曲──たとえば“キケンナアソビ”って曲も、すぐには反響もなくて、やっぱりダメかと思ってたんですけど、じわじわ反応が出始めて。あの曲はやる時、毎回楽しいんですよね。確かにドキドキながら作ったし。キャリアを重ねて慣れていくと、音楽に対して膿んでいくようなところがあるけど、そんな中でも、あの曲は学生の時みたいな感覚で作ってて、楽しかったなあって思うんです。っていうのが、演奏する時にもちゃんとあるんですよね。そういうのって大事だなと思って。そういうふうに1曲1曲作っていけば、時間はかかるかもしれないですけど── この間、“キケンナアソビ”が1億回ストリーミングされたって聞いて、やっぱり行ったかって。5、6年経ってそれぐらい聴かれて、ライブでやったら、クリープハイプをよく知らない人でも「あ、知ってる」みたいになるっていう。それってすごく身の丈に合った感じっていうか、サイズが合ってる感じがしたんですよね。そういうスケールがなんとなくわかってきたから、なおさら今回の新曲も、間違ってはいないかもなって思いましたね。