──“花瓶”についてのコメントで、こうきさんは、「恋愛をベースにしながらも、『自分にとって大切なものは何か』というのを見つめ直すきっかけになってほしいという思いを込めて制作しました」と話されていました。自分が人と違うと気づいたときに感じる孤独ってあるなと思っていて。「自分にとって大切なものは何だろう?」と気づき直せる、考え直せるきっかけになる曲にしたいなと思ったんですよね(こうき)
こうき はい。このドラマはBLを題材にしているんですが、自分が人と違うと気づいたときに感じる孤独ってあるなと思っていて。そういうときに、自分の気持ちよりも周りにどう思われてるかが気になったり、周囲に振り回されて、自分の大切なものを見失うこともあるだろうなと。そのことも含めて、「自分にとって大切なものはなんだろう?」と気づき直せる、考え直せるきっかけになる曲にしたいなと思ったんですよね。
──なるほど。こたさん、らなさんも、大切なものを見失いそうになった経験がありますか?
こた うーん、どうだろう……。
こうき こたはすごく優しいんですよ。いつも周りを優先してくれるタイプ。
こた そういう面では、常日頃、大切なものを失い続けているのかもしれない(笑)。
こうき 僕にとっていちばん大切なものって、誰かを思いやる気持ちなんですよ。心の余裕がなくなると、誰かを思いやることができなくなるじゃないですか。そうならないように僕自身のケアをしつつ、周りの人たちを優先しながら行動できるようにしたいと思ってるんです。なので僕にとっての「大切なものを失うとき」は、他の誰かをないがしろにしてしまうときなのかも。
──そういう考え方は徐々に身についてきたものなんですか? それとも、もともとの性格?
こた 性格もたぶんあると思うんですけど、小学校、中学校くらいの頃から人の話を聞くのが好きなんです。話し上手というより聞き上手側というか。誰かの話を聞いて、そこにマインドを持っていくのが癖になってるし、そういうところから自分の人間性が形成されているのかなと。
こうき 確かにこたは人の話をよく聞くし、周りに合わせてくれて。だからこそ、こたが本当はどうしたいのかがわからないことも結構あったんですよね。
こた 制作やクリエイティブの面では、この性格は短所かもしれないなって。
──エゴを出したほうがいい場面もありますからね。
こうき それも言ったことがあるんですけど、こたの優しさに救われることもあるので……いい人です(笑)。
らな (笑)。私も意外と人を優先しちゃうことが多くて。たとえば友達と一緒にいると、「自分はこうしたい」よりも相手の気持ちを考えちゃうんです。もともと人を喜ばせるのが好きだし、友達の誕生日とかでもいろいろやってあげるタイプで。ただ、自分の気持ちをないがしろにすることで、苦しくなることもあるんですよ。本音で友達と向き合えなくて、結局、関係がうまくいかなくなることもあったり。自分の本当の気持ちを我慢してしまって、すれ違いが生じて、結局どちらのためにもならない。ドラマのストーリーでもそういうことが描かれているし、自分としても共感できた。それは“花瓶”に込めた思いともシンクロしているのかなって。この3人でいるときは自我丸出しというか(笑)、言いたいことをどんどん言えるんですけどね。
──バンドでははっきり意思を示せるというのは、一緒に音楽を作り上げる仲間だから?
らな それはすごくあると思います。音楽に対して全力で意見を言って、ぶつかり合って、クリエイトしていくというのは最初から意識していたので。あと、シンプルに性格が合うというか。
こうき ちゃんと歯車がかみ合ってます(笑)。
らな 全員キャラクターは違うんですけど、無理なく自然にかみ合ってるところがあって。だから自分の気持ちも出しやすいんですけど、それはもう偶然というか。
こた そうだね(笑)。
こうき もちろんこのふたりだからやれてることではあるんですけど、僕としては「どういう人間として、どう生きたいのか」をいちばん大事にしていて。それを音楽で表現しているだけなんですよね。かっこいい音楽をやることが土台ではなくて、どう生きていきたくて、それをどう伝えたらいいだろう?という。「どうあってもいいんだよ」というのを前提に3人ですごく話し合いをしたんですけど、音楽をやるうえでのマインドが一致しているからこそ、普段から素でいられる、ナチュラルな状態でいられるんだと思います。
──“花瓶”のバンドサウンドにも、3人の人間性がしっかり表れていると思います。“溶けないで”に続いて保本真吾さん(SEKAI NO OWARI、Official髭男dismなどの楽曲を手がけるプロデューサー)がアレンジ、プロデュースに関わっていますが、基本はキーボード、ベース、ドラムのアンサンブルですね。ヒットさせることが僕らの最大の目的ではないけど、いろんな人に聴いてもらうというのは、音楽を続けていくうえでも、生きていくうえでもすごく大切だなと思っている(こうき)
こうき そうですね。保本さんは「こうしたらこの曲はもっとよくなる」だけではなく、僕らがバンドとしてどう育っていくか?ということを考えてくださっていて。今の時代の中で、18歳、19歳の僕らがどういう音楽をやればいいか?だったり。
──あまり背伸びしすぎてもよくない、とか?
こうき そうですね。演奏のヨレだったり、グルーヴの拙さなども含めて、「これが今の君たちの良さだよ」と言ってくれて。それがうまく絡み合ってる瞬間のテイクを使ったり、勉強になりますね。
こた うん。ただ、最初は「この曲、リズム隊いらないじゃん」みたいになって、めっちゃ頭を抱えてたんです。こうきが作ったデモは、鼻歌っぽい歌と鍵盤のコードの弾き語りみたいな感じだったんですけど、そのイメージが強すぎて、「このままでいいじゃん」と思ってしまって。その後、自分でも打ち込みでドラムを組んでみたんですけど、同じようなフィルが続いたり、どうしても単調になって。ずっと考えてるうちにどうしていいかわからなくなって、「もうドラムいらなくない?」みたいな状況に……。
こうき 「どうしよう」ってなってたよね。
こた そのあと、保本さんとも相談して、「楽曲を完成させるためのドラムは、この形しかないよね」というところに落ち着いたんですけどね。
──この曲にはシンプルなドラムがベストなんだと。
こた はい。そのことに気づいたときに、「自分は知らない間に、ドラムで自己主張しようとしてたんだな」と思って。楽曲をよくすることだったり、違和感なく、耳にスッと入ってくるドラムの大切さを再認識したし、レコーディングでもダイナミクスを意識したり、きれいに聴こえることを重視しながら演奏しました。同じようなフィルでも叩き方によっていろんな味が出せることにも改めて気づかされましたね。
こうき 今までの楽曲はグルーヴを大事にすることが多かったんですよ。違和感なくナチュラルに聴こえるんだけど、「よく聴くと、ドラムで面白いことをやってるよね」みたいな。“花瓶”はすごくシンプルなバラードなので、フレーズで個性を出そうとすると、どうしても合わなくなっちゃうんですよね。そのあとのバランスもしっかり考えられたと思っています。あと、「高校生の頃は拙い演奏が評価されることもあったな」と思い出したんですよね。もちろんうまくなるために一生懸命頑張ってるんだけど、技術をひけらかすのは違うので。
らな “花瓶”はこれまでリリースしてきた楽曲とは全然雰囲気が違っていて。こういうバラードをしっかり形にするうえで、ベースのアレンジもいろいろ考えました。楽曲を引き立たせるようなベースラインはもちろん大事なんだけど、その中で面白さや引っ掛かりもポイントになるのかなと。ここぞというときはベースラインを動かしてみたり、いかつめのグリス(グリッサンド)を入れたり、スパイスを加えることにも脳を使ってました。
こうき ふたりともニュアンスの出し方がうまくなったなって思いますね。
──もちろん、こうきさんのボーカルも大事なポイントですよね。いかに説得力のある歌が歌えるかという。
こうき そうですね。シンプルなバラードだし、ドラマで使われるということも含めて、歌が棒読みだったら全然意味がないので。父が持っているスタジオでレッスンしてもらったり、歌録りの前にいつも以上に練習しました。音域が広くて大変なんですけど、技術的なことよりも、とにかく歌詞がちゃんと伝わるように歌おうと。そこまでピッチがズレるタイプではないので、自分の表現を全部出すことだけを考えて。聴いてくれた人が「大切なものってなんだろう?」と考えるきっかけになってほしいし、そのためにも思いを込めることに集中していました。
──“花瓶”はココラシカの2024年の飛躍を実感できる楽曲だと思います。みなさんもバンドとしての成長を実感しているのでは?
こうき 今年は高校を卒業して、楽曲をしっかりリリースしていくところから始まったんですよ。ライブもそうですけど、3人のスタイルを見つめ直す時期だったし、プロとしてやっていく覚悟についてもすごく話し合った。それがちょっとずつ形になってきているので、来年はしっかり結果を出せる1年にしたいですね。ヒットさせることが僕らの最大の目的ではないけど、いろんな人に聴いてもらうというのは、音楽を続けていくうえでも、生きていくうえでもすごく大切だなと思っているので。そこからは目を逸らさないようにしたいです。
──ポップであることから逃げないというか。
こうき そうですね。大衆にウケるだけではなくて、「この人たちにしかできない」というオリジナリティや個性もすごく大事だと思っていて。そのふたつが美しく混ざり合う瞬間が、自分がいちばん求めていることなのかなと。マインドはオルタナティブでありたいし、それをどうポップスに落とし込むかを考えていきたくて。たくさんの人に届くこと、新しい音楽を更新していくことを常にやっていきたいんですよね。この話、ふたりにもずっと言ってるんですけど。
こた ずっと聞いてます(笑)。
──2025年3月20日には渋谷Spotify O-Crestで初のワンマンライブ「三原色」も決定。
こうき 今年は自己紹介というか、ココラシカというバンドをアピールしていく1年だったんですが、3月のワンマンは「ここから本当に飛躍していくぞ」というところを見せたいと思っていて。さらに大きくなっていく、いろんなところに羽ばたいていく僕らを想像してもらえるようなライブをやりたいですね。力みすぎるのはよくないけど、「伝説が始まった」みたいな日にしたいです。
こた その日が伝説にならなくても、今後「あのライブ、伝説だったね」というふうになっていく形でもいいと思うんですよ。
──ライブに来た人が後々、「ココラシカの初ワンマンを観たんだよ」と自慢できるような。
こうき そうですね。「目撃できてよかった」って心から思ってもらえるライブにしたいし、この先のココラシカにもワクワクしてもらえたらなと。
らな 「三原色」というタイトルも気に入っています。3人それぞれの色があって、それが全力で混ざり合うことでいろんな色ができるという。ワンマンライブでもたくさんの色を見せたいなと思ってます!