──吉田一郎不可触世界さんにプロデュース、アレンジしてもらうことによって曲が形になっていくわけですが、それについてはどんな感想がありますか？曲ができると他人事になっちゃう、俯瞰する感覚がたぶんずっと生きてるうえであるんです
すごいなあって。自分の力だけでは、曲を作ることはまあできないので「おわ、すごいなあ」って。なんか曲を作っている段階が私はいちばん自分勝手で、曲ができるともう他人になっちゃうところがあるんですよね。それは水曜日のカンパネラもそうで。それって水曜日のカンパネラでは、私が曲を書いてないからなのかなって思ってたんですけど、ソロでも全然関係なくて。俯瞰する感覚がたぶんずっと生きてるうえであるので、曲ができても「うわ、自分の曲ができた、私が頑張ったからだ」とかってほんとにないんです。「あ、曲できた、すごーい。おめでとうございます」みたいな。自分が自分自身に「おめでとうございます、詩羽さん」って言ってるくらいの感覚で、胸が熱くなったとかはほんとにないタイプなんだなって思いました。なんかどんな時でも、ずっと俯瞰はしてるんだと思います。
──そういう俯瞰してるからこその跳躍力が、水曜日のカンパネラにおける詩羽さんのポップさにもきっと影響してて。他人事だから、どこまでも飛べちゃうみたいな。
そうですね、それはほんとにあると私も思いますね。
──それはソロにもあって、曲を書いたあとは俯瞰して見れるところが、このアルバムをポップにしている感じがしますよね。
なんかそうですね。編曲も「もうちょっとテンポ遅いほうがいいですね」とか「ここはもうちょっと間奏短いほうがいいですね」とかはあるんですけど、それ以上はほんとにないです。曲を書いてメロディをなんとなく私が決めた時点で私の仕事は自分の中で終わってて。それがよりよいものになるためのことを一郎さんがやってくださって。水曜日のカンパネラでも私、いつもケンモチさんがいいって言ったらそれでいい、それ以上を求めるタイプじゃないんですけど、ソロでもほんとに変わらなかったです。一郎さんがいいって言ったら「じゃあ、もう全然それで」くらいの感覚。なんか、ものの良さって自分だけじゃ絶対に決められないって私は思ってて。根本的に自分に自信がある部分もあるけど、自分に自信がない部分もちゃんとあるので、自分がいいっていうものよりも、人がいいってものを信頼するっていう。それは信頼できる人が周りにいるので、その感覚でやっているからこそ、曲作りのいちばん初めの段階以外で主観的になりすぎることがないんだなっていうのは自分でも思いますね。
名前の通りに生きてるねって言われる生き方を見せるのが得意な人間ではあるなと思いますけど、実際は全然です
これはアルバムが完成するより前からアルバムを作るならこの名前にしたいって決まってましたね。
──前から自分の中にある言葉ですか？
自分の名前の由来ですね。
──そっかそっか。
詩羽が本名なので、その由来をつけたいなって。初めてのアルバムにふさわしいなと思ってこれにしましたね。
──自分の名前は好きですか？
自分の名前めっちゃ好きですね。
──名づけの通りに生きているって感じはある？
いやあ、全然……（笑）
──（笑）全然なんですね。
うたうように、ほがらかに、世界に羽ばたいていけますようにって名前ですけど、別に全然朗らかじゃない部分もありますし。ただ自分では、そう見せるのが得意だなとは思いますね。うたうように、ほがらかに、世界に羽ばたいていけますようにって、名前の通りに生きてるねって言われる生き方を見せるのが得意な人間ではあるなと思いますけど、実際は全然です。ただ自分に似合う名前ではあるなと思いますね。好きではありますし。
──今回のソロに関しては、うたうようにほがらかに必ずしも生きているわけではない自分も踏まえながらも、うたうようにほがらかにありたいという願いまで結果的に表現した感じがするんですよね。
まあ歌を出すって、生きてきた証拠を残す感覚だなと思っているので。生きてた証拠を残すために、自分の名前を残したかったって感覚ですかね。このうたうようにほがらかに自体が詩羽って意味だなって私はもう思ってるので。自分の名前のもの、自分の顔のものを残すことで、もう私の中ではひとつの満足というか、自分の人生にひとつ納得がいくポイントなのかもしれないですね。
──詩羽さんにとって歌ってなんですか？
どっちのうたですか？
──漢字で言う「詩」か「歌」かってことですよね。
そうですね、言葉の方か、メロディのほうか。
──今、メロディのほうのつもりで聞いたんですけど、両方聞きたいので、まずメロディのほうの「歌」は？
は、割と純粋に好きなものですね。もともと私は歌手になりたいって思いもなかったですし、水曜日のカンパネラを始めて1年くらいは歌ってるのが楽しいって感覚がなかったんですけど、1年半くらいたったタイミングで「私、歌ってるの好きなんだ」「ライブを私、楽しんでるんだ」って自分の中で気づいた日があって。そこからより自覚してライブが楽しくなりましたし、歌うこと自体が好きになって「じゃあ、もっと実力を上げたい」と思ってボイトレを始めたりしたのが1年半くらい活動したタイミングでした。その時に歌が好きだって気づいたんですね。もともと歌は好きでちっちゃい頃からよく歌っている子だったけど、いざ仕事にした時に、自分の中で好きなものがわかんなくなっちゃった感覚があったんですけど改めて「私、歌好きなんだな」って気づいた日があったので。で、言葉の意味の「詩」は、なんだろうな……本音を話しやすい場所みたいな感覚なんですかね。人に言いたくないことも、文字にするのは簡単だったりしますし。自分にしか見えない場所に書き留めていくことで自分の感覚が研ぎ澄まされることだったり、自分の中で決着がつくことだったり、考え方が広がることってすごく私の中では多いので。言葉っていうのは自分にとって正直になるための一つの手段というか道具というか。それが今回はメロディの「歌」とも合わさってるみたいな感覚で。自分の正直な部分と好きなものが合わさったのが、このソロ活動でもあるのかなと思いますね。
