マニック・ストリート・プリーチャーズ
UK屈指の名盤『エヴリシング・マスト・ゴー』完全再現ライブに今、行くべき理由
マニック・ストリート・プリーチャーズが11月に約1年ぶりの来日公演を行う。昨年がサマーソニックでのフェス来日だったのに対して今回は満を持しての単独ツアー、しかも『エヴリシング・マスト・ゴー』の20周年を記念したスペシャルな全曲再現ライブとなる。マニックスが結成30周年の節目を迎えるこの年に、彼らが名盤『エヴリシング・マスト・ゴー』の再現ライブをやる意義、そして私たちファンがこの再現ライブを絶対見逃せないいくつかの理由を改めてチェックしておくことにしよう。
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『エヴリシング・マスト・ゴー』は「今」のマニックスの原点である
『エヴリシング・マスト・ゴー』はリッチー・エドワーズ(G)の失踪(1995年)後、残されたジェームス(Vo、G)、ニッキー(B)、ショーン(Dr)の3人だけで初めて作ったアルバムだ。リッチーの失踪からすでに21年が経ち、日本はもちろん本国英国でも4人時代のマニックスをリアルタイムで聴き、観ていたファンは少なくなっている現状だが、つまりそれは3人時代のマニックスとファンの関係が既に20年以上続いているということでもある。そして彼らがかくも長きキャリアを積み重ねることができたのは、リッチーを失った彼らが前を向くことを、未来を見つめることをこのアルバムで決意したからだ。4人時代のマニックスが神話化されていく一方で、私たちファンと地続きで生きてきた同時代のバンド、そのマニックスの確かなリアリティ、手応えはこの『エヴリシング・マスト・ゴー』から生まれたものだと言えるだろう。
彼らが英国で国民的支持を集めるビッグネームとなったのも本作からだし、歌いながらリード・ギターもリズム・ギターも全部ひとりで弾きまくるジェームスが2.5人分働き、年々ドラムが上達し続ける寡黙なショーンがしっかり土台を固め、そしてトレードマークとなった羽飾りのマイクスタンドに向かうニッキーがバンドのアティチュードを象徴する、そんなとことんエネルギッシュでアンセミック、そして何よりもポジティヴなパワーに満ちた現在のマニックスのライブのフォーマットが完成したのも、この『エヴリシング・マスト・ゴー』からだ。このアルバムはまさに「今」のマニックスの原点なのだ。
『ホーリー・バイブル』と『エヴリシング・マスト・ゴー』、対照的な2枚の傑作再現ツアーのそれぞれの意味
昨年のサマーソニックでのマニックスのステージもまた、1994年リリースの『ホーリー・バイブル』の20周年を記念した完全再現ライブだった。彼らがこの2枚のアルバムの連続再現ツアーを行ったのには大きな理由があるはずだ。リッチーが参加した最後のアルバムである『ホーリー・バイブル』の再現とは、マニックスにとって今なおステージにぽっかりと空白が残されているリッチーの不在を永遠に受け入れる儀式であり、時間をかけて名盤となった『ホーリー・バイブル』を彼ら自身が改めて誇り、いくつものトラウマもひっくるめて再評価するための再現だった。過去の総括と赦しが同時に行われたライブだったと言ってもいいだろう。それに対して今回の『エヴリシング・マスト・ゴー』の再現は、マニックスの今、そしてこれからに向けての指標となるライブだと言えるんじゃないだろうか。
ちなみにジェームスは『エヴリシング・マスト・ゴー』は「“逃避とサバイバル”のアルバムだった」と語っている。アルバム・タイトルにも象徴されるように、何を失おうとも彼らの道は続いていくし、ファンのために、そしてなによりもリッチーを含む自分たちのためにマニックスを続けていかなくてはならない、そんなギリギリの瀬戸際で彼らが踏ん張り、生まれた傑作がこの作品だ。結果的に『ホーリー・バイブル』の再現ライブが20年ぶりに彼らの「逃避」に決着を付け、そして『エヴリシング・マスト・ゴー』の再現ライブは「サバイバル」に成功した彼らの20年と、これからも続いていくそのサバイバルを祝福するものになる。『ホーリー・バイブル』と『エヴリシング・マスト・ゴー』のふたつの20周年、ふたつの再現と総括は、本当に表裏一体の構造を持つものなのだ。
ヒット曲満載、ポップ・アルバムとしての『エヴリシング・マスト・ゴー』を今こそ再評価せよ!
そんな『エヴリシング・マスト・ゴー』の歴史的な重要性や位置づけとは別に、このアルバムがエポックメイキングなのはジェームスのソングライター、メロディメイカーとしての才能が開花したポップの名盤でもあるという点だろう。今なおマニックスの最高のアンセムである“A Design for Life”を筆頭に、“Kevin Carter”、“Everything Must Go”、“Australia”と、ライブでの大シンガロング大会必至の名曲が目白押しの本作は英国でダブル・プラチナを記録、マニックスに初の商業的成功をもたらした一枚だ。初期の破れかぶれの徒花パンクスから『ホーリー・バイブル』でカルト・ヒーローとなったマニックスが、大衆的支持を集めた本作を作ったことによって、UKシーンでは数少ないキャリア25年選手としての普遍性をも手に入れることができたのだ。
このアルバムがリリースされた1996年の英国はオアシスがネブワースに25万人を集めた年、つまりブリットポップの最盛期にあたる。浮かれ騒がしかったあの時代はたしかにバブルには違いなかったが、同時にあそこまでギター・ロックが求められた時代も以降20年かの国には訪れていない。本作はそんな時代の空気、ギター・ロックの万能感のようなものにぴたっとフィットしたアルバムだったのも大きいだろう。
ちなみに続く『ディス・イズ・マイ・トゥルース・テル・ミー・ユアーズ』(1998年)はさらにメジャー化が進み、完全にスタジアム・ロック仕様のビッグ・メロディが詰まった作品となったが、この『エヴリシング・マスト・ゴー』には依然として初期マニックスのソリッドでパンクな荒々しさも残っていて、マニックス流のラウド・ギターとポップネスのバランスが最高のアルバムでもある。最初にこのアルバムは「今」のマニックスの原点と書いたけれど、現在のマニックスのソングライティングの指針となっているのもこの作品だ。なお、マニックスの最新作『フューチャロロジー<未来派宣言>』は、『エヴリシング・マスト・ゴー』のソングライティングと『ホーリー・バイブル』のアティチュードの両方を兼ね備えた傑作だった。
そしてどうなる、『エヴリシング・マスト・ゴー』再現ツアーのセットリスト?!
サマーソニックでの『ホーリー・バイブル』再現ライブでは、全曲再現の後に数曲のエクストラ・ナンバーが披露されたが、今回は単独公演ということもあってもっと明確な二部制になることが予想される。『エヴリシング・マスト・ゴー』の完全再現の第一部と、マニックスのオールタイム・ベスト・セットが用意されるだろう第二部、イメージとしてはスウェードの2年前の『ドッグ・マン・スター』再現ライブに近いものになるはずだ。
たとえば、今年5月に彼らが地元ウェールズのリバティ・スタジアムで行った再現ライブのセットリストが、まさにそういうものになっている、二部では『ジェネレーション・テロリスト』時代の懐かしの曲からユーロ2016のウェールズ応援歌としてリリースされた最新曲“Together Stronger (C’mon Wales)”まで網羅した十数曲からなる、まさにファン・フレンドリーなセットになっている。しかしそもそも『エヴリシング・マスト・ゴー』の再現自体がアンセム連打の流れになるので、一部も二部もアッパーなノリが続くハイカロリーな一夜になるのは間違いない。なお、ライブのフィナーレの定番である“A Design for Life”をアルバムの曲順通りやるとすれば初っ端の2曲目で目撃することになるというなかなかシュールな体験も、今回の再現ライブの醍醐味だ。
5月のウェールズでの『エヴリシング・マスト・ゴー』の再現ライブのセットリストは以下のとおり。
(一部)
Elvis Impersonator: Blackpool Pier
A Design for Life
Kevin Carter
Enola/Alone
Everything Must Go
Small Black Flowers That Grow in the Sky
The Girl Who Wanted to Be God
Removables
Australia
Interiors (Song for Willem de Kooning)
Further Away
No Surface All Feeling
(二部)
Ocean Spray
Can't Take My Eyes Off You
Motorcycle Emptiness
Walk Me to the Bridge
Your Love Alone Is Not Enough
Together Stronger (C'mon Wales)
Nat West-Barclays-Midlands-Lloyds
You Stole the Sun From My Heart
Roses in the Hospital
Show Me the Wonder
(Feels Like) Heaven
You Love Us
If You Tolerate This Your Children Will Be Next
歴史的な位置づけにおいても、そして単発のライブのセットリストの充実した楽しさの面においても、両方の意味で凄いことになるのが今回のマニックスの来日だということを、これでお分かりいただけたんじゃないだろうか? 公演まであと約1カ月弱、5月にリリースされた『エヴリシング・マスト・ゴー』の20周年記念盤と共に11月のその日を待っていてほしい。
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企画・制作:RO69編集部