前作の成功は、その前にリリースされたエルトン・ジョンの名曲“ユア・ソング”のカバーで約束されたようなものだった。息も絶え絶えに歌われるザ・ストリーツ・バージョンは、「僕にはお金も才能もないし大したことは何もできないけど、君のために一生懸命歌を作るよ」という歌詞の内容にふさわしく、ひたすら泣けたし、ストリートというタームから独立したリリシスト/ボーカリストとしての完成をうかがわせた。アルバムでの訥々として切なく優しいラブ・ソングの輝きは、その延長線上にあったと言っていい。だが同時にそれは、彼のアーティストとしてのモチベーションの消失をも意味していた。
そして本作をもってザ・ストリーツとしての活動から引退するスキナーは、成功と引き替えに失ったものを歌う。自分に残されたものは武器としてのコンピューターと、大切なものを失った悲哀としてのブルースだけだったと歌う。音の鋭さ、リズムの切れ味の良さ、アグレッシブさとは裏腹に、その空虚さは隠しようもない。だがこれがスキナーのギリギリ体を張った最後の自己表現なのだ。切実すぎて痛い。(小野島大)
完成と空虚
ザ・ストリーツ『コンピューターズ・アンド・ブルース』
2011年04月06日発売
2011年04月06日発売
ALBUM