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Tani Yuukiの楽曲に通底する死生観がより進化している。ウォームな手触りのミドルテンポの楽曲“他人り事”では、生きていればつきまとう涙を流す瞬間や心が空になる瞬間や人と自分を比べてしまった瞬間や好きなものが嫌いになる瞬間を描写しつつ、生きていくことと死んでいくことを対比させ、生きていくことのほうにベクトルを向け、ここから人生を歩んでいくための道しるべを示す。多層的なアンサンブルが印象的なバラード“Survivor”ではいくつもの出会いと別れを経験する不確かな日々を通して、大事な存在がただ生きていてほしいと願い、《降り注ぐ雨が少しでもはらえるならば/僕は歌っていたい/ここで歌っていたい》と自らが歌う意義を見出す。
「この曲で何を伝えたいのか」ということと真摯に向き合い言葉と音を際立たせながらも、時に遊び心を感じさせる多彩で洗練されたポップスを聴かせる。令和における強靭なポップアルバムである。(小松香里)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2025年8月号より)
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