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フライング・ロータス『ヤスケ』
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ALBUM
フライング・ロータス ヤスケ

LAの新たなベース・ミュージック〜ジャズの象徴としてシーンを牽引してきたフライング・ロータスが、Netflixのアニメ『YASUKE ―ヤスケ― 』のために書き下ろした楽曲/劇中スコアを1枚にまとめた本作。渡辺信一郎総監督の『キャロル&チューズデイ』に音楽を提供したこともあったように日本のポップ・カルチャー通であるのはつとに知られているし(『カウボーイビバップ』が好きだそう)、自ら映画『KUSO』を監督したこともあるくらいビジュアルの嗅覚は鋭い。

そんな彼だけにある意味「起きるべくして起きた」ずっぱまりにカルチャー・フュージョンな企画であり、しかもストーリーは戦国時代に織田信長に仕えたとされる伝説のアフリカ人サムライを主人公に据えた時代劇版代替現実SF(!)。母国から引きはがされたがゆえに自由/解放を求めて異界――宇宙から海底世界からワカンダまで様々だが――を志向するアフロフューチャリズムのユニークなバリエーションと言える内容だと思うし、本人も総合プロデューサーのひとりとして企画段階から参加しキャラ造型他に案を提供したという入れ込みぶりだ。

その入れ込み/情熱に応える形で、メロウかつポジティブで心温まるOP曲②にサンダーキャット、ニキ・ランダら盟友も2曲にボーカルで参加、⑬ではデンゼル・カリーが「ヤスケ」の来歴とキャラをラップで乱射する。

そうしたゲスト・フィーチャーを除くと全編インストの作品ながら、さすが音楽的な引き出しの多さを誇るFL、サウンドのパレットにはヴァンゲリスの名サントラ『ブレードランナー』を筆頭とするシンセサイザーの瀑布がメインで参照されている(特に作品後半で盛り上がってくるサイケデリックかつエピックなスケール感が素晴らしい。OPNもうかうかしてられません)。

彼の音楽の通低音として常に存在するメランコリーと美しいメロディの感覚が普段よりも前面に出ている気がするのは、他者の作った物語に音楽を添える役回りという意味で、世界観を自分で一から作り出さなくてはならないオリジナル・アルバムよりも本作では逆に少し肩の荷を降ろせたからなのだろうか?

とはいえ、そこに日本的な音階や「間(ま)」が活きる打楽器の鋭さ、ジャズ、ヒップホップ、エレクトロニックといった多彩な要素をブレンドすることで独特な世界が構築されているのはスリリングだし、そもそも映像喚起力の高い音楽を作る人だ。アニメ本編を観なくても、単体で存分に楽しめる音楽作品になっている。

武士道とその掟をストイックに追求する「現代アメリカに生きるブラック・サムライ」を描いたジム・ジャームッシュ監督の『ゴースト・ドッグ』は、RZAが担当したサントラも素晴らしかった。ジャームッシュやRZAは70〜80年代に海外で放映されたチャンバラやカンフー劇を観て極東に思いを馳せた世代だが、あれから20年以上経って、こうしてまた日本の古い哲学/精神性とアメリカのスピリチュアリティが音と絵を通してヒューマンな共振を果たしてくれたことを心から嬉しく思う。(坂本麻里子)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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フライング・ロータス ヤスケ - 『rockin'on』2021年7月号『rockin'on』2021年7月号

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