いまから振り返っても、スーパー・ファーリー・アニマルズほどユーモアと知性で世界の混乱を乗り越えようと訴えたバンドはいなかった。
とくに90年代末〜00年代初頭、たとえばレディオヘッドと問題意識(グローバル社会が生み出す不平等や搾取)を強く共有しながら、それを楽しくて優しいサイケ・ポップで表現しようとしたのが彼らだったのである。10年代以降SFAはオリジナル・アルバムをリリースしていないが、フロントマンのグリフ・リースがソロ作でその続きをやっているようなところがある。
アルバムごとにユニークなコンセプトを打ち出しているリースだが、本作のモチーフは、北朝鮮と中国の国境地帯に位置する火山である白頭山。ただ、具体的に白頭山にまつわるエピソードを集めているというよりは、山から受けたインスピレーションをもとにして、お馴染みのフワフワしたサイケ・ポップでイマジネイティブに語っている。
ビーチ・ボーイズなどの西海岸ロックからの影響は相変わらず強く、とても親しみやすくメロディアスな曲が並ぶ。それで山のことを歌っているのだから、何かシュールなジョークのように感じる人もいるかもしれない。
だがもちろん、そこにはシリアスな問題意識が入っている。神聖な山にまつわる歴史をたどりながら、現代の文明社会に生きる我々が信じるもの(神)を失っていることをリースはここで描いているのである。かつては信仰の対象だった山が、いつしか領土問題といった政治問題の現場にすり替わっているように、すべては争いの火種になって人びとはお互いを遠ざけてしまう。
そのことを嘆きながら、リースは優しく甘いメロディとともにその先の希望を探している。このサイケ・ポップの想像は切実な祈りなのだ。(木津毅)
ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』6月号に掲載中です。
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