ソロはもちろん、さまざまなコラボでの極めて自由度の高い活動が常に期待を裏切ることのないカート・ヴァイルの新作5曲入りEPは、米カントリー・ミュージックの聖地テネシー州ナッシュビルのThe Butcher Shoppeスタジオを舞台に4年間にわたって録ってきたもの。というと大げさなプロジェクトを連想するが、音は緩やかで、王道カントリーというわけでもなく、かつてで言えばフライング・ブリトー・ブラザーズやグラム・パーソンズに通じるカントリー・ロックのテイストを、もっと足もと軽くやった感じでカートの根の部分に流れる音楽感性が自然と浮かび上がってくる。
オープナーの“Speed of the Sound of Loneliness”と“How Lucky”の2曲をカバーした故ジョン・プラインを始め(ジョン本人とデュエットしている後者がとても良い仕上がりだ)、エルヴィス・プレスリー、ジョニー・キャッシュ等のバックを務めたプレイヤーやその世界では著名なプロデューサーなどが参加しているが、そうした人たちのキャリアやバックグラウンドにあまりこだわることなく、素直にカートの新作(オリジナルは“Dandelions”“Pearls”の2曲)として接した方が奥行きが深まる。
またベテランだけじゃなくザ・ブラック・キーズのダン・オーバックやスーパーウルフのマット・スウィーニーが参加しているあたりは、さすがカートで、特別際だったことをやっているわけじゃないが、精神的に大きなウェイブの共有感が見えてくる。とくにオリジナルの“Dandelions”なんかが醸し出すロマンチックな雰囲気はカントリー云々を超えてアメリカン・ミュージックの根底を成しているエッセンスをこの人もまたしっかり受け継いでいくのがはっきりとわかるはずだ。(大鷹俊一)
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