『権力、不正、虚偽』――昨今のニュースの見出し?と見まごう妙にタイムリーなタイトルのニュー・オーダーの83年の2nd、昨年から始まった「ディフィニティヴ・エディション」シリーズの一環として待望の新装再登場だ。
初めてマスター・テープを用いてリマスターされたアルバムのCDおよびアナログ盤、未発表音源を多く含むボーナスCD、82年から84年にかけて撮影された様々なライブ映像や自主ドキュメンタリーを収めたDVD2枚と盛りだくさんな内容で、名盤を良い音で、フル・スペックで味わえる。コアなファンはもちろん、これを機に若い世代が多角的に本作に接してくれれば最高だ――伝統的な業界慣習を嫌うこのプライベートなバンドは当時取材をあまり受けなかったし、不可侵な悲劇のオーラに包まれた謎でもあっただけに文字による説明抜きに音源や映像でダイレクトに浴びるのがベストだと思う。ジャケにバンド写真を使わず、“テンプテーション”、“ブルー・マンデイ”、“コンフュージョン”といったヒット曲がアルバム未収録という現在ではまずあり得ない決断も天の邪鬼だし、思わせぶりな本作のタイトルにしてもその真意(ネーミングの由来ですらバーニーとフッキーで説が異なる)は筆者にはいまださっぱり分からない。逆に言えば「その人間が聴いて感じた/自主解釈はいずれも正解」なわけで、だとしたら数多くの音と絵の素材を一堂に俯瞰できるこのボックスは後追い世代のフレッシュな目と耳にこそもってこいでは。
37年後の視点から改めて聴いてみても、名曲①の清澄さや③の歌詞の無垢な情感に顕著な、このバンドがいまだに備えている訥々としたエモーションのうぶな発露には胸打たれてしまう。発展段階の楽曲を捉えたインスト・デモを始めとする試行錯誤の過程をディスク2でたどり直せる面も大きいだろうが(“ブルー・マンデイ”の変身ぶりには驚かされる)、テクニック面で拙かった4人が葛藤と実験の果てに⑤⑧といったシンセ・ポップの古典を生み出したと思うとやはり感動的。トニー・ウィルソンやマーティン・ハネットら〈ファクトリー〉を構成していた強烈なキャラの数々、およびカリスマ=イアン・カーティスの呪縛を離れて自主プロデュースで一人歩きし始めていたこの時期、ツアー時にニューヨークのディスコ〜ヒップホップ文化に触れて大きく開いた彼らの目はエレクトロとシンセの持つ可能性、ダンスと光の探究へと向かっていた。その変貌/転生の記録であると同時に、ここから続いていくニュー・オーダーの音楽的な根本が凝縮されている1枚としても必聴だ。 (坂本麻里子)
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