帰ってきた、みんなのガガ

レディー・ガガ『クロマティカ [デラックス・エディション]』
発売中
ALBUM
レディー・ガガ クロマティカ [デラックス・エディション]

ここ数年はテレビ/映画女優としての仕事も増え、特に18年公開の『アリー/ スター誕生』では、アカデミー賞の主演女優賞にノミネートされるほど大絶賛を浴びたレディー・ガガ。その主題歌であった“シャロウ〜『アリー/ スター誕生』愛のうた”の大ヒットも記憶に新しいところだけど、一方で、彼女のオリジナル・アルバムのリリースは16年の『ジョアン』を最後に止まったままになっていた。ひょっとして、このまま女優業に移行しちゃうのか!?

でも、もうそんな心配はいらないようだ。5月29日にリリースされた本作『クロマティカ』は、原点に立ち返ったレディー・ガガの渾身のダンス・ポップ・アルバムである。作曲/制作陣には、共同プロデューサーのブラッドポップを筆頭に、スキリレックスやフランス人DJのマデオンらが参加。最新のエレクトロ・ハウス/トランス/EDMポップが縦横無尽に張り巡らされていく。アリアナ・グランデとのデュエット曲“レイン・オン・ミー”や、Kポップ界からの刺客ブラックピンクと初共演した“サワー・キャンディー”など、話題のシングル曲が収録されている点も楽しい。“サイン・フロム・アバヴ”ではエルトン・ジョンがスーパーヒーローのお師匠さん的に駆けつけ、SFプログレ劇場的に本気のスーパーデュエットを披露するという、実に⋮⋮ファンタジーな一曲。また、ラスト・ソングの“バビロン”は、マドンナ姉さんの往年の“ヴォーグ”への素敵すぎるオマージュにもなっている。流行りモノだけじゃなく、偉大な先人たちへのリスペクトを忘れないのもレディー・ガガのいいところなのだ。

ダンス・ポップというジャンルの音楽は、逃避的で、快楽主義的だという偏見を持っている人も多いだろう。でも、レディー・ガガの場合は違う。過去のヒット曲を思い出してもらえればわかるとおり、彼女のダンス・ポップにはまず「傷」がある。それをグルーヴという特効薬で「いかに癒していくか?」というのが多くの楽曲のテーマになっている。本作も歌詞をじっくり聴き込んでいくと、彼女のさまざまなトラウマが描かれているのだけど、決してダークなアルバムではない。むしろ、ガガ史上もっともポジティブなアルバムになっていて、そこがすごい。

コロナウイルス禍の影響で発売日が何度もズレてしまった不幸なアルバムでもあるのだけど、彼女がこの時期の発売をあえて決断してくれたことに、心から感謝しよう。クラブだろうが、ステイ・ホームだろうが関係ない。時に、踊ることは、僕らの最高の癒しである。 (内瀬戸久司)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。
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レディー・ガガ クロマティカ [デラックス・エディション] - rockin'on 2020年8月号rockin'on 2020年8月号
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