フランス人のDJ/プロデューサーで、この1月には3年ぶりとなる来日公演でも圧巻のステージを披露してくれたマデオン。2011年に39曲ものポップ・ソングをマッシュアップした“Pop Culture”が某動画サイトで評判となり、「エレクトロ・シーンに“神童”登場か?」などと騒がれたときには17歳だった彼も、今はもう25歳。昨年11月にデジタル配信された本作は、約4年ぶりとなる待望の2ndアルバムである。
マデオンの15年発表のデビュー作『アドヴェンチャー』は、マーク・フォスター(フォスター・ザ・ピープル)やパッション・ピットなど、外部アーティストたちとのコラボ・ワークが中心のアルバムだった。ちょうどEDMポップの流行がピークを迎えていて、その王道的なアプローチを採用したから、というビジネス上の理由もあっただろう。でも、本作のアプローチはまったく違う。今回の彼はアルバムのすべての曲を自分自身でプロデュースしている上に、ソングライティングも、アレンジも、ミックスもすべて自分ひとりでハンドリングし、サンプリングはいっさい使わず、おまけにほとんどの曲でボーカルもこなしている――「おひとり様」であることを徹底的に突き詰めた、真の「ソロ・アーティスト」アルバムなのだ。
音楽的にも、これまでのEDM/フレンチ・ハウス路線をベースに残しつつ、ファンクやゴスペル、最新のR&Bやヒップホップなどの要素を積極的に取り入れることで、より奥行きの深いサウンドへと進化を遂げた。“マニア”のような曲ではピンク・フロイドやテーム・インパラからの影響によるサイケデリックな色彩感が美しいし、ライブでクライマックスのポジションに配置されている“ミラクル”は、これまでのマデオン史上もっともソウルフルなバラード。最近の好きなアーティストとしてフランク・オーシャンやアンダーソン・パーク、チャンス・ザ・ラッパーらの名前を挙げていたのも納得である。前作と比べてケタ違いにボーカルの表現力が深まっているのは、16年のポーター・ロビンソンとのコラボ楽曲“シェルター”と、その後のジョイント・ツアーから得た自信の賜物なのだろう。
本人いわく「人生の中で、本当の幸福や喜びを感じられた瞬間」をテーマとして、じっくり時間をかけて作り上げたという全10曲。聴いていてフィール・グッドな気分になれるのは前作も同じだけど、今の彼の音楽が向かっているのは、さらにその先の風景だ。マデオンといっしょに探しに行こう、ハピネスの向こう側に待つ絶景を。 (内瀬戸久司)
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