テキサス州オースティン出身のスプーン、20年以上にわたってこれほどコンスタントに好作品を出し続けているというのに、日本ではもうひとつ知名度が上がらないのは不思議だが、おそらく時代のキーワードにキャッチーに乗っかる部分が薄いのが大きいのだろう。他にも著名プロデューサーと絡んだり、仲間・ネットワークの話題もあまりなく、加えてレーベルがインディのマージ・レコードだったというのも多少影響しているのかもしれない。
しかし20年以上、どんな時代に鳴ってもおかしくない、時流とは距離を置いた普遍的ロック・バンドとしての快感原則が詰まった音は、とてつもなく貴重だ。親しみやすいメロディであったり、わかりやすいサウンド、歌や演奏など、いろいろな要因があるが、それらすべてが絶妙のバランスで詰め込まれているのがスプーンというバンドだ。
そんなグループの歴史を13曲に凝縮したベスト盤。最初のスマッシュ・ヒットとなった05年の“I Turn My Camera On”に始まり、連続No.1の“Don't You Evah”、“Got Nuffin”を軸に気持ちよく聴かせるが、魅力の源泉と言えば、なんと言ってもボーカル&ギターのブリット・ダニエルが書く曲で、人気を決定付けた5枚目の『ギミ・フィクション』(05年)や次の『ガ ガ ガ ガ ガ』(07年)あたりの曲はこの中にあっても明確な存在感を示している。
そしてこの記念すべきベスト盤を祝して新曲“No Bullets Spent”が最後に入れられているのだが、プロデューサーにアデルやクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジとやったマーク・ランキンが起用され、これまでとはちょっと違ったドラマ性が感じられるものになっている。これが新作アルバム用のセッションから生まれたというのだから期待が膨らむ。 (大鷹俊一)
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