テキサスはオースティンの5人組バンド、スプーンが最新アルバム『Lucifer On The Sofa』を完成させた。古巣「Matador」への復帰作となった前作『Hot Thoughts』から5年。近作では周到なスタジオ・ワークを通じたモダンなプロダクションがサウンドを特徴づけていたスプーンだが、今作のアプローチはある意味で対照的と言っていいかもしれない。
フロントマンのブリット・ダニエルが語る。「最高のロック・ミュージックとは、適切なパッチを見つけたり、サンプルを入れたりすることではない。その空間でどんなことが起こるかということなんだ」。
その言葉通り、ドラム・マシンやシンセが多用された前作と比べると、今作はバンド・サウンドの原点に立ち返ったような簡素で生々しい手触りが印象的だ。近作を要所で彩ったサイケデリック/アンビエント的なテクスチャーは影を失せ、ライブ・フィーリングも漂うダイナミックな演奏が、彼らのR&Bやソウルといったルーツ音楽のマナーに即したソングライティングを際立てている。
それはロカ風のアップリフティングなリード・トラック“The Hardest Cut”にも顕著だが、しかし、レイドバックしたオールドスクールな趣向というわけでは勿論なく、楽器の鳴りや音の分離/解像度は極めてクリアでモダン。“Held”や“Wild”のミニマルで立体的な音像は2010年の傑作『Transference』も彷彿させる一方、ウーリッツァーやティンパニ、サックス等が飾る“Astral Jacket”を始めとした後半の楽曲においても一貫した音作りのトーン&マナーが敷かれている。
その辺りの絶妙な按配は、プロデューサー兼エンジニアのマーク・ランキン(アデル、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ)に加えて、3作連続の参加となるデイブ・フリッドマンの手腕も大きいのだろう。
実に10年以上ぶりに地元オースティンで録音されたという『Lucifer On The Sofa』。通算10枚目のアルバムでもある今作に際し、彼らの中では節目を意識する部分も、もしかしたらあるのかもしれない。リリースは2022年2月。期待して待たれたい。(天井潤之介)
スプーンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。