もはやライフワークとなりつつあるデーモン・アルバーンによるアフリカ音楽探求。アフリカ・エクスプレスはデーモンを中心とするUKとアフリカのアーティストのコラボレーション・プロジェクトで、本作はとくに南アフリカのミュージシャンをフィーチャーしている。それによって自然と現在の南アフリカ音楽が入ることとなり、かの地でハウスから発展したゴム(gqom)の要素なども発見できる。ヤー・ヤー・ヤーズのニック・ジナーが参加した“シティ・イン・ライツ”や“アフリカ・トゥ・ザ・ワールド”などに顕著だが、ダンス・サウンドが本作のワイルドなトーンを決定づけており、それは当然アフリカ音楽に由来するものだ。
いっぽう、スーパー・ファーリー・アニマルズのグリフ・リースと南アの伝統音楽ミュージシャンであるモレーナ・レラバがコラボレートする“ヨハネスブルグ”にはサイケの要素も強く感じるし、デーモン自らボーカルをとる“ビカム・ザ・タイガー”などはゴリラズにも通じるダークなエレクトロニック・サウンドが聴ける。音楽における西洋とアフリカの出会いは繊細な問題をつねに孕んでおり、場合によっては植民地主義に陥る危険性がある。デーモンは当然この問題に意識的だったに違いなく、ここでは西洋/アフリカという線引きが不可能になるほど折衷的な音が目指されているようである。「ワールド・ミュージック」という呼称が無効化しつつある現在だが、ポスト・コロニアルの文脈における理想的なポップ・ミュージックがここでは模索されている。ラップを中心として踏みこんだアフロ解釈がトレンドになっている現在だからこそ、音楽的な幅が非常に広い本作にはアフリカと向き合うための多くのヒントを見つけられるだろう。 (木津毅)
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