前作『アップタウン・スペシャル』からのシングル“アップタウン・ファンク”が、(ほぼ)ブルーノ・マーズの曲として認知されて大ヒット、グラミー賞を受賞。レディー・ガガらと共に作った“シャロウ 〜『アリー/ スター誕生』愛のうた”では、さらにアカデミー賞までゲットするなど、近年のマーク・ロンソンは当代きっての売れっ子クリエイターとして眩いスポットライトを浴び続けてきた。前作はそんな彼に相応しいアッパーなファンク、R&Bアルバムだったわけだが、約4年ぶりの新作となる本アルバムに至って、劇的に明暗が反転している。「深夜の気分」なるタイトルにも明らかなように、本作のイメージはまさに夜。パーティーが終わった後の一抹の虚しさや独りきりで過ごす夜の内省、本作はそうしたどこまでもメランコリックなムードでしっとり包み込まれたアルバムなのだ。
マイリー・サイラス、カミラ・カベロ、アリシア・キーズ、リッキ・リー、イェバら、今回のフィーチャリング・アーティストも錚々たる面子だ。ただし、彼女たちが本作で果たしている役割は、これまでのロンソンのアルバムのそれとは全く異なっていると言っていいだろう。かつての彼はゲストに招いたボーカリストたちにインスパイアされながら、彼女たちの魅力を最大限に引き出せるサウンドを個別にデザインしていく、サービス精神に溢れたアーティストだった。DJ兼プロデューサーとしてのずば抜けた職能がそうさせていたのだろう。しかし今回のロンソンは、自分が今どうしても歌に昇華したいフィーリングを最優先し、ゲスト・ボーカルの彼女たちはむしろそんな彼の気持ちに寄り添い、汲み取りながら歌っている。主体はあくまでもマーク・ロンソンであり、本作の彼はソングライターとして真っ直ぐ自分自身と向き合っている。
真っ二つに割れたハートがあしらわれたアルバム・ジャケットが象徴するように、《新しい誰かを探そうとしても、あなたと比べてしまうから無理》だと歌う“ファインド・ユー・アゲイン”のように、本作がそうしたパーソナルなアルバムとなった裏には、5年半連れ添った妻との離婚を経験したロンソンの傷心が横たわっている。溜息のようなソウル・ボイスに癒しを湛えたアリシア・キーズや、ドスの効いたハスキー・ボイスで喪失を歌い上げるマイリー・サイラスのラテン調ファンクなどは、酸いも甘いも嚙み分けた歌姫たちからロンソンに向けたエールのようにも聞こえる。一方、キング・プリンセスやエンジェル・オルセンが歌うインディライクなエレクトロ・チューンは、そのナイーブな響きが胸にきます。 (粉川しの)
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