現時点では残念ながら日本では発売されていないカニエ・ウェスト待望の新作『ザ・ライフ・オブ・パブロ』。アメリカではストリーミング・サイトTIDALで聴けるが、それが完成形なのかもイマイチ分からない。これを書いている2016年2月現在も、ポール・マッカートニーとの未発表曲がリークされ、ドレイクと曲を発表するとカニエがツイートしている。時代の速さより早く時代を切り取る──それが彼の最新作だ。そしてどこか未完のエッジが残っているところ、それが今作のカッコ良いところでもある。自ら「ゴスペル」作と語る本アルバムは、改宗してキリスト教徒となった罪の意識が強いパウロの人生をタイトルとし、「俺の最大の敵は自分のエゴ」とツイートする彼が「カニエがカニエを愛するように君を愛する」とフリースタイルするその狭間で父親になること、成功に直面し神の前で葛藤する様を描いている。過去の作品のような特徴的サウンドはなく、今回はむしろ過去作のアップデート版が入り交じるカオス。しかしその中で、エモーショナルで美しい光が突然差し込む瞬間があり、カニエの才能という救いにハッとさせられるのだ。（中村明美）