今年もフジロックまでいよいよ2週間を切り、タイムテーブルとにらめっこしながら3日間の動き方をシミュレートし始めた人も多いはず。個人的に今年のフジで最も悩ましいのが3日目の夜だ。なぜって、GREEN STAGEのザ・キュアーをフルセット観ようとするとWHITE STAGEのジェイムス・ブレイクがほぼ観られないってだけでも大問題なのに、FIELD OF HEAVENのクルアンビンに至ってはキュアーの完全真裏でダダ被りなのだ。クルアンビン、今年のフジの裏ベストになること必至の大注目アクトなのに(泣)!
フジロックではピースフルで多様性に満ちた苗場の空気や、移り気な空模様を味方につけ、マジカルな瞬間を生み出していくアクトがしばしば出現し、その年の話題をかっさらってしまうことがある。今年、そのポテンシャルを最も感じさせるバンドのひとつが、このクルアンビンだ。クルアンビンがフジ・ロックに、特にFIELD OF HEAVENの独特のフィーリングにオートクチュールのようにしっくり馴染むだろうことは、彼らの曲を聴いてもらえれば秒で理解いただけるはず。
テキサスを拠点に活動するクルアンビンは、ローラ・リー(B)、マーク・スピアー(G)、ドナルド"DJ"ジョンソン(Dr)からなるインスト・トリオ・バンド。彼らは60〜70年代のタイのファンクやポップ・ミュージックから多大な影響を受けたそうで、バンド名の「Khruangbin」もタイ語で「飛行機」を意味する単語だとか。
ちなみにタイ・ファンクと言えば2000年代半ばのクラブ・シーンでダンスホールなどと並行してちょっとしたトレンドになったこともあったが、それはクルアンビンが活動を始動させた時期とも重なっている。ディープ・ファンク繋がりでボノボに見出された彼らは、2015年にデビュー・アルバム『The Universe Smiles Upon You』をリリース。ファーザー・ジョン・ミスティらとのツアーを重ねる中でバズが大きくなっていき、今年3月の初来日公演も全公演ソールドアウトになった。
昨年リリースの2ndアルバム『Con Todo El Mundo』に至って彼らのジャンル・レパートリーはさらに深化し、インドネシアのガムランやメキシコのマリアッチ、さらにはアラビア音階をフィーチャーしたナンバーまで、エキゾチズムが加速している。ただし、それらはアメリカナイズされた中華料理みたいに強引にローカライズされたものではなくて、それぞれが緩く繋がり、マーブルに溶け合いながらチルでメロウなグルーヴを生み出していくという、極めてオーガニックな成り立ちだ。60年代のウエストコーストが蜃気楼のように蘇ってくるガレージ・サイケ、サーフ・ロック的なギターも堪りません。
その一方でリズム隊にはダブ、ダウンビートを取り入れているし、リバーブの巧みな濃淡で生み出されるスペースサイケデリックな奥行きには理知的な音響派の一面も伺える。ティコとツアーを回った経験からも伺えるように、クルアンビンはポストロックやチルウェイブとしてのモダネスも兼ね備えているのだ。
それにしてもどうですか、彼らのライブのこの最っ高なバイブス! ワールド・ミュージックとクラシック・ロックやファンク、そしてテン年代のインディ・ミュージックをひとつに昇華していくクルアンビンのグルーヴ、ジャンルと時代を超越した包容力のようなものは、まさにフジロックのスピリットと共振するものだし、FIELD OF HEAVENの辺りの山々に木霊し、フィールドの恍惚とユニティを導いていく様が今から眼に浮かぶようだ。
ちなみに本日7月12日にはフジロック来日を記念した日本独自盤『全てが君に微笑む』もリリースされる。YMOバージョンでも知られる“Firecracker”のカバー(マーティン・デニーのオリジナルへのリスペクトも感じられる秀逸な出来!)など聴きどころ満載なので、直前ウォーミングアップに最適な一枚となりそう。(粉川しの)
今年のフジロックの「裏ベスト」候補はこのバンド!メロウでエキゾなファンク・グルーヴで桃源郷へと誘う異色のインスト・トリオ、クルアンビンを見逃すな
2019.07.12 20:00