フジロックで彼女らを観たときもその大人気ぶりに驚いたものだが、この日の大阪公演も大入り。あらためて、いまもっともクールなR&Bバンドであるジ・インターネットが日本でもしっかり愛されているのを目の当たりにする。
最新作『ハイヴ・マインド』はメンバーそれぞれのソロ作を経てバンド・アンサンブルの厚みや躍動を強めたアルバムだったが、今回の来日ははっきりとその成果を感じるものだった。1曲目はアルバムのオープニングでもある“Come Together”だが、明らかに音源よりベース音のバランスが大きく、ジ・インターネットのアンビエント的音響の側面よりもファンク・バンドとしての力を強調する。2曲目に披露されたシングル“Roll (Burbank Funk)”もまさにそんなナンバーで、グルービーなベースラインの上でシドとスティーヴの艶やかなデュエットが絡み合う。
「オルタナティブR&B」を通過しサウンド・テクスチャーの現代性を獲得したジ・インターネットがいま、より70年代ファンク的なオーセンティシティにたどり着いていることは興味深い。ベッドルーム・リスニングに適した親密な官能性をしっかりと保った上で、ライブ・バンドとしての身体性を増幅させている。そこでは間違いなく、スウィートなダンス・ミュージックとして鳴らされるのである。
小柄な身体を揺らしながら、時折はにかんだような笑顔を見せながら歌うシドのキュートさは最高だった。彼女のメロウで柔らかい歌声が、じっくりと会場の隅にまで行き届くのがわかる。MCでは「このなかにカップルはいる?」と観客に尋ね、僕の隣にいた10年付き合っているというカップルに曲が捧げられる一幕もあった。シドから見えていたかはわからないけれど、彼らはゲイ・カップルで、当たり前のようにその関係がそこで祝福されていることに何だか嬉しくなってしまった。あるいは、元恋人について歌った“Just Sayin”で「You Fucked Up!」のシャウトをオーディエンスに求める場面もあり、オーディエンス自体がバンド・アンサンブルと一体になっていく。
代表曲“Girl”では、ふと気がつけば会場のカップルたちが自然と身体を寄せ合って揺れている。シドが「マイ・ガール」について甘く甘く歌うサイケデリック・ソウルでありゲイ・ラブ・ソングが、すべてのジェンダーやセクシュアリティに開かれていること。それは当然だが「文化の盗用」などではなく、ポップ・ソングのマジックである。「See You Soon!」と笑顔で去って行ったジ・インターネットは、きっとまたすぐに僕たちの身体と心を揺らしに来てくれるだろう。(木津毅)
※レポートは大阪公演(2月27日)、ライブ写真は東京公演(2月26日)の公演のものです