「メンバーの実力が最高に発揮されたアルバムはやはり『危機』なんだ」、ロッキング・オン2月号でのスティーヴ・ハウの言葉だ。そのインタビューでハウが絶讃していた現メンバーによる3年ぶりのイエス公演。今回の東京3日間は、初日が『危機』再現、中日がベスト・セレクション、最終日が『サード・アルバム』再現、というラインナップで、この日(22日)は初日、『危機』の完全再現日である。
定刻ジャスト、例によってストラヴィンスキーの“火の鳥”が流れるなか、スティーヴ・ハウ(G)を中心にジェフ・ダウンズ(Key)、ビリー・シャーウッド(B)、ボーカルのジョン・デイヴィソン、そしてジェイ・シェレン(Ds)が登場、『究極』からの“Parallels”でスタートする。まずはベスト・セレクション・セットが第一部ということで、続いて『時間と言葉』の“Sweet Dreams”、11年のアルバム『フライ・フロム・ヒア』から“Fly From Here Pt1-We Can Fly”となかなかマニアックなナンバーが続き、これはこれでかなり得した気分になる。複雑で、細かい構成のナンバーを涼しげ、かつエモーショナルに演奏していく姿は、ハウの言うようにバンドとしての好調さが漲っている。
さらに『ラダー』の“Nine Voices (Longwalker)”では12弦マンドリン、次の“Clap”ではアコースティック・ギターを弾いたりと、亡きクリス・スクワイアに変わり<王家>を守るハウの張り切りっぷりも伝わってくるし、一部最後の“Yours Is No Disgrace”では、オリジナル・メンバーのトニー・ケイ(Key)が参加し大盛り上がりで終了となった。
約15分のインターバル後、さぁー、いよいよ『危機』ワールドだ。
アルバム・ジャケットのロゴが背景に浮かび上がるなか、登場した5人は、静かに“Close to the Edge”へと流れ込んでいく。約20分、4つのパートに分けられた組曲は緩やかに起承転結の環を拡げ、広大な空間を創り出すが、キードードのジェフ・ダウンズやベースのビリー・シャーウッドが丁寧なサウンドメイクを施してるのが印象的で、とくにクリスの音色やプレイを意識したビリーのベースがとても良くて、この日のベスト・プレイヤーとしたい(楽曲もベストだった)。
そして“Siberian Khatru”などでは体調問題があってフル参戦は難しいアラン・ホワイトがドラムスで頑張ってくれ、会場中が『危機』体験の幸福感に満たされた。
アンコールでは、ふたたびトニー・ケイも加わり、最初期の名曲“No Opportunity Necessary, No Experience Needed”(『時間と言葉』)、そして出世作の“Roundabout”(『こわれもの』)、締めくくりは『イエス・サード・アルバム』からいつもの“Starship Trooper”と、ファンには嬉しいところがずらりと並ぶ。トニー参加のせいもあって初期曲への重心が大きいセットリストではあったが、これはこれでファンには喜ばれるもので、“現”イエスに大きな拍手が送られた。(大鷹俊一)