追悼ロビー・ロバートソン ―― ザ・バンドに始まる、ルーツ音楽とロックを融合させた快挙を讃えて

追悼ロビー・ロバートソン ―― ザ・バンドに始まる、ルーツ音楽とロックを融合させた快挙を讃えて - rockin'on 2023年10月号 中面rockin'on 2023年10月号 中面

8月9日、ロビー・ロバートソンが永眠した。長い闘病生活の果て、80歳の誕生日を迎えてまもなくのことだ。現在の家族はもちろん、元妻のドミニクにも看取られた最期は彼の誠実な人柄を偲ばせる。

しかし、このレジェンドを「あの名曲“ザ・ウェイト”を作ったザ・バンドのリーダー」だけで片づけてしまうのは寂しい。彼の真価は、生涯を通じてアメリカ大陸のあらゆるルーツ音楽を掘り起こし、時にはエレクトロニカまで取り入れ、時にはトレント・レズナーやトム・モレロらとコラボしながら、魂を揺さぶるエモーショナルな音楽を創り続けた、ということだ。

その最初の成果が、ザ・バンドだ。彼らはブルースやR&B、ゴスペル、カントリーなどに精通していたが、単なるルーツ音楽に根差した土臭いサウンドだったら、クラプトンを米国移住させ、ディランに熱愛されるほどのインパクトが生まれるわけがない。ザ・バンドとは、ルーツ音楽の魂をロックに呑み込む自由でアグレッシブな革命だったのだ。

ドキュメンタリー映画『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』の1シーン――5人が嬉々として凄技を繰り出し、それがぞくぞくするオーガニックなグルーヴに化けていく魔法のようなジャム――は、極めて象徴的だ。ロビーは、クセ者揃いのメンバーの表現衝動を全て引き受け、あの比類ないグルーヴを導き出した。ルイス・ブニュエル映画や南北戦争をモチーフにアメリカ社会の深層意識にまでダイブする稀代のソングライターでもあり、ピッキングハーモニクスなどの技を極めた独創的なギタリストでもあった。

その後のソロ作品で、彼の天才はさらに開花する。中でも、ニューオーリンズ音楽への深い愛情が弾むようなエクスタシーにいざなう『ストーリーヴィル』(91年)は不朽の名作だし、『コンタクト・フロム~』(98年)ではネイティブアメリカンとしての出自(母親がモホーク族)に回帰し、ネイティブの伝統音楽とエレクトロニカを自在に融合させながらこの世界の不条理を抉り出した。40年以上も続いた映画音楽制作でも、常に革新的なサウンドスケープを産み出した。

ザ・バンドとして、ディランの盟友としての功績にとどまらず、ロビー・ロバートソンという人が創造した世界を再発見してみてほしい。(茂木信介)



ロビー・ロバートソンの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

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