【今月の気になるあいつ】 アイス・スパイス
2000年生まれ、ニューヨーク/ブロンクス出身の新人ラッパー。2022年リリースの“Munch(Feelin’ U)”と、2023年リリースのピンクパンサレスとの“Boy’s A Liar”リミックスにて、シーンにセンセーションを巻き起こす。ラップ/ R&Bシーンにおける偉大な女性アーティストたちのレガシーを引き継ぐ、最注目アーティストのひとり。現在発売中のロッキング・オン5月号では、「気になるあいつ」にてアイス・スパイスを掲載しています。本記事の一部をご紹介。
文=池城美菜子
アイス・スパイス。2021年に名前が知られ始め、2022年夏に“Munch (Feelin’ U)”がTikTok経由でバイラルヒット。ドレイクやニッキー・ミナージュが名前を出し、リル・ナズ・XのMVやグロリラ&カーディ・Bの“Tomorrow 2”で言及された。ニューヨーク・タイムズのジョン・カラマニカは「ニュー・プリンセス・ヒップホップ」とまで呼んでいる。今、最もヒップホップで話題を集めているニューカマーは、ブロンクスのフィメールラッパーである。
そして、彼女はドリルミュージックをやっている。「むしゃむしゃ食べる、貪る」を意味する「マンチ(Munch)」は、マリファナでハイになって過食に走る症状を指すときによく使われる。これを、オーラルセックスに言い換えた点にアイス・スパイスの才気があり、新しいスラングを生み出した。“Munch (Feelin’ U)”を意訳すると、「むしゃむしゃ(好きだと思った?)」になる。オーラルセックスをさせるけれど、別に好いていない、と相手を突き放す内容なのだ。
攻撃的なまでにセクシュアリティを押し出すのは、90年代半ばにリル・キムとフォクシー・ブラウンがメジャーシーンに躍り出た時代から、フィメールラッパーのお家芸である。セックスはパワーだ。彼女たちは、男性ラッパー同様に自分の性的魅力を誇示して、性欲を肯定することで、男社会の最たるものであるヒップホップゲームの牙城を崩し、居場所を作ってきたとも言える。リル・キムがデビューアルバムを出した際、M字開脚で屈んでいるポスターがニューヨークの街中に貼られた(元P・ディディの采配である)。初EP、『Like..?』のイラストのアートワークで、アイス・スパイスは股を押さえながら前屈みで両脚の間からこちらを覗き込んでいる。
伝統的なフィメールラッパーの系譜に堂々と自らを並べているが、ちがう点もある。リリックを細かく読むと、アイス・スパイスの恋愛対象は男性と女性の両方が含まれるのがわかる。《They Need To Know, We’re Here And We’re Queer (みんなにわからせないと 私たちはここにいる クィアな私たちがね)》というラインもある。
(以下、本誌記事へ続く)
続きは、『ロッキング・オン』5月号で! ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
Instagramはじめました!フォロー&いいね、お待ちしております。