2021年も、残りあとわずか。
新年へのカウントダウンが盛り上がるこのタイミングで、ロッキング・オンが選んだ2021年の「年間ベスト・アルバム」ランキングの10位〜1位までを、毎日1作品ずつ発表していきます。
年間4位に輝いた作品はこちら!
ご興味のある方は、ぜひ本誌もどうぞ。
【No.4】
『サムタイムス・アイ・マイト・ビー・イントロヴァート』/リトル・シムズ
シーズ・ザ・ボス
2019年発表の前作『グレイ・エリア』で高い評価を集めたロンドン出身MCの4作目。19曲入りと大作ながら母国では堂々アルバム・チャートのトップ5入りを果たし(英インディ・チャートでは1位)、一躍カルチャー・アイコンと化した。
Band camp他のデジタル・チャンネルを通じファン基盤を築き、自らのレーベルを運営。役者としても活躍中の人だけにMV/ビジュアル面でのストーリーテリングのセンスも秀逸(興味のある方はぜひロンドン自然史博物館で撮影された“イントロヴァート”の勇壮さ&高いメッセージ性と、先頃公開された短編映画『アイ・ラヴ・ユー・アイ・ヘイト・ユー』のテンダーさとを見比べてみてください)。
天性のカリスマも含め、イギリスではこれまでなかなか出て来なかったいわば「ジャネール・モネイ」型の総合的なブラック・アクトだと思う。「ラップ」というジャンルを超えたインフローの柔軟かつ多層的な本作でのプロダクション(映画音楽、ネオ・ソウル、R&B、ジャズ、アフロビートetc.)は数多くのアクセス点を備えている。ビートに乗って踊るのもいいし、ヴァイブに揺れるのもいい。
しかし軽く耳に引っかかったフレーズや言葉を追っていくとシムズの詩人としての鋭い感性とユニークなフロー、コンセプチュアルな作りに引き込まれるはず。そのコンセプトの核は「自分は内向的な時もある」という告白で、カメオ出演した『ヴェノム』第2作向けの“Venom(Remix)”のカミソリのようなエッジやパフォーマンス時の毅然とした強さを思うと意外だ。しかし「父の不在」というトラウマを始めこれまで以上にパーソナルな側面をさらした本作からは、まだ自信に欠けていて揺らぎ疑問を発し模索を続ける若くクリエイティブな現代女性の素顔が浮かび上がる。
アメリカ発の人種差別的なステレオタイプに「アングリー・ブラック・ウーマン」というのがある。パワフルな黒人女性を揶揄し見下すフレーズだが、この作品を聴くと彼女たちの怒りや悲しみの背景に横たわる複雑なエモーションの諸相が伝わるし、何よりそれらを克服しようとする決意と誇りに胸を打たれる。
ストームジーや共演したこともあるマイケル・キワヌーカ等、ヒップホップ/ソウル/ジャズにまたがるUKブラック新世代はノっている。その象徴のひとつが打ち出した見事なステイトメント作。(坂本麻里子)
「年間ベスト・アルバム50」特集の記事は現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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