文=粉川しの
10月1日付のUKアルバム・チャートで見事1位を獲得し、本国でセンセーションを巻き起こしているのがザ・ラザムスのデビュー・アルバム『How Beautiful Life Can Be』だ。
マンチェスター近郊の街ウィガン出身の新人ギター・バンドが、オリヴィア・ロドリゴやドレイクら大物を抑えて首位に立つというまさにジャイアント・キリングだったわけだが、このラザムスの快進撃もまた「UKロックの当たり年」である2021年を象徴するものだったのは間違いない。実際それは数字が証明していて、今年のUKチャート1月〜10月1日の39週のうち、実に11週でUKバンドの作品が1位を獲っている。つまり4分の1以上(28%)の占有率であり、2020年(17%)や2019年(15%)と比較してもUK勢の勢いは顕著だとBBCは伝えている。
しかも1位攻勢の主力を担ったのはベテランのベスト盤などではなく、ウルフ・アリスやブリング・ミー・ザ・ホライズン、ロイヤル・ブラッドといった現役ど真ん中のバンドたちの最新アルバムだった。BPI(英国レコード産業協会)のスポークスマンもこうコメントしている。「2021年は本当に大当たりの年だった。ストリーミングとアナログ・レコードの売り上げが共に好調で、結果として優れたUKギター・ロックの新たな潮流が生まれた」と。
そうしたUKギター・ロックの新たな潮流の中でインヘイラー(彼らはアイリッシュ・バンドだが)やザ・スナッツなど、新人のデビュー・アルバムも次々と1位を獲得。中でもスコットランドのバンドとして実に14年ぶりの1位となったスナッツ、そしてこのラザムスという2組のUK新人バンドのブレイクには、ひとつの大きな共通点がある。それは「UKロックの王道」を自覚的に歩むバンドの、久しぶりの凱旋であるという点だ。
ラザムスは2019年にウィガンで結成されたギター・ロック・バンド。メンバーは主要ソングライター&シンガーのアレックス・ムーアを中心に、音楽カレッジで出会ったという4人だ。ウィガンと言えばかのザ・ヴァーヴを輩出した街であり、マンチェスターを中心とするノーザン・ロックの血脈を受け継ぎながら、ポール・ウェラーやエルトン・ジョン、ザ・シャーラタンズのティム・バージェスらが目下お気に入りのバンドとして名前を挙げるなど、つくづく由緒正しいというか、オールドスクールなUKロックのイメージを体現している。
『How Beautiful Life Can Be』を聴けばわかるように、サウンド自体もUKロックの伝統芸と呼ぶべきお約束の連続で、極論すれば新鮮味は一切ない。その代わりにUKロック好きのツボを的確に突きまくるメロディ、コード、フレージング、リフ、転調その他諸々が満載で、抗うのは至難の業、白旗上げて「最高!」と叫ばずにはいられない代物なのだ。(以下、本誌記事に続く)
ザ・ラザムスの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。