文=大鷹俊一
一瞬にして時代の空気や雰囲気を伝える音がある。それこそ音楽の力というやつで、60年代だったらビートルズの『サージェント・ペパーズ~』、70年代はセックス・ピストルズの『勝手にしやがれ!!』か(異論多数、認めます)。90年代ならやっぱりニルヴァーナの『ネヴァーマインド』あたりがすぐに浮かぶのだが、さて、80年代は何なのだろう。
マイケル・ジャクソンの『スリラー』(1982年)、マドンナ『ライク・ア・ヴァージン』(1984年)、デヴィッド・ボウイ『レッツ・ダンス』(1983年)、プリンス『パープル・レイン』(1984年)やU2の『ヨシュア・トゥリー』(1987年)等々、どれもこれも歴史的な作品ばかりだし、もちろん本特集の主人公ガンズ・アンド・ローゼズの『アペタイト・フォー・ディストラクション』(1987年)やメタリカの『メタル・マスター』(1986年)を挙げる人もいるだろう。それほど多彩な音が共存した時代が80年代であり、だからこそいまだにそこかしこに影響の欠片はあって、少しも古びた感じがしない。歴史として過去に収まってはいないのだ。
そんな中でもひときわ異様だったのがハード・ロック~各種メタル・バンドの景気の良さで、マイケル・ジャクソンの大人気に阻まれヴァン・ヘイレン『1984』(1984年)やホワイトスネイクの『白蛇の紋章~サーペンス・アルバス』(1987年)はチャートの2位止まりだったものの、それほどハード・ロック/ヘヴィ・メタル(HR/HM)に勢いがあったし、多彩なグループ、アーティストたちが高いポピュラリティを得ており、30~40年経た今でも、あの時代の鼓動、呼吸の生々しさには驚かされる。なぜそこまでウケたのかを考察し現在から俯瞰すると見えてくる点も多い。
激しい音が人気を得た背景のひとつには、80年代前半のメインストリームではジャーニーやTOTOに代表されるAORと呼ばれる音の人気が高かったのも大きい。キャッチーでわかりやすいサウンド、高度なテクニックに裏打ちされた商業性の高い音はAORとされたり、“産業ロック”と揶揄されたりもしたのだが、確かに60~70年代、ロックで育った世代が社会的にも落ち着く年齢になり、もうロックでもないよなぁーという気分の蔓延があった。
しかし、そんなこと知るかとばかりに爆発していったのがHR/HMの尖った音に共感する人々で、レッド・ツェッペリン、ディープ・パープル、ブラック・サバスといったブリティッシュ・ハード・ロックを築いたクラシックなベテラン・バンドのエッセンスを持ちつつ、新感覚で、音の硬度を高めたり強靭なリフで装備したモーターヘッド、AC/DCたちが、そんな希求に応えていく。またパープルを抜けたリッチー・ブラックモアのレインボー、同じく元パープルのデイヴィッド・カヴァデールによるホワイトスネイク、サバスを脱退したオジー・オズボーンらも積極的に活動していた。(以下、本誌記事に続く)
<総力特集 コンテンツ紹介>
★1988年、ガンズ・アンド・ローゼズが絶頂期に語った超貴重インタビュー
★天才ベーシスト、クリフ・バートンの死の直後である1987年、メタリカ再生のドラマが描かれたインタビュー
★80年代究極のハード/メタル名盤を軸に、当時のシーン全体を詳細につづった特別論考
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