ラナ・デル・レイの勢いが止まらない。前作『ケムトレイルズ・オーヴァー・ザ・カントリー・クラブ』から、リリース延期を挟みつつわずか約7ヶ月というスパンで届けられる最新作『ブルー・バニスターズ』が、またしてもとんでもない傑作となりそうな気配であるのだ。
過去を少し振り返るならば、カート・コバーンやエイミー・ワインハウスへの同化願望を隠そうとしないその態度も含め、恐らくは自ら望んで「本物なのかそうでないのか」を煙に巻くような雰囲気を漂わせていた彼女が、ノスタルジックなサウンド・スタイルに同時代性を見事に取り入れながら独自の作家性を確立していったのが『ラスト・フォー・ライフ』~『ノーマン・ファッキング・ロックウェル!』の2作であった。
とりわけ、2019年の『ノーマン~』は最高傑作として高い評価を得たわけだが、そこからがさらに凄かった。『ケムトレイルズ~』では、アメリカーナを咀嚼した前作における作曲・アレンジの異様に高い精度を維持したまま、登場からしばらくの間彼女の表現の核を成していた、途方もない「痛み」と「哀しみ」が戻ってきていたのである。達磨の目が入るように、傑作『ノーマン~』に唯一欠落していたものが埋められた。そんな感動があった。
そして、『ブルー・バニスターズ』だ。去る5月に先行して発表されていた3曲、“ブルー・バニスターズ”、“ワイルドフラワー・ワイルドファイア”、“テキスト・ブック”の懐かしさと新しさ(特に“ブルー・バニスターズ”の歌の譜割りがもたらす緊張感たるや!)が同居したサウンドからも予感はあったが、9月8日にリリースされた“アルカディア”が決定打となった。ごくシンプルな伴奏に乗りながら、そのメロディと歌唱の無二の儚さにより、どこまでも聴き手の琴線を打ち抜く真新しいポップ・ソング。問答無用の大名曲である。こんなクオリティがアルバム1枚にわたり維持されているとしたら、一体どれほどの美しき高みに到達するのだろうか。震えて待つ。 (長瀬昇)
ラナ・デル・レイの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』11月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。