フリート・フォクシーズが9月22日に秋分の日を記念して、4枚目となるアルバム『SHORE』を突然発売した。
アルバムは55分で、16mmで撮影された映像とともに視聴できる。
また、1曲ずつがリリックビデオにもなっている。
バンドのサイトでは、限定のアナログや、マグカップなどが発売中だ。
https://fleetfoxes-shore.com/search/?category=3468&cat_Name=Shore
https://store.fleetfoxes.co/featured/
ロビン・ペックノールドがこのアルバムに関して4ページにもわたる長文のステイトメントを発表している。今作にバンドメンバーは参加しなかった、という衝撃の事実もあったが、その事情も含め、この作品について以下要約する。
●作曲、レコーディング
『SHORE』は、2018年9月~2020年9月に作った。
前作『クラック-アップ』のツアー170公演が終了したらすぐに書き始めた。
ポルトガルの郊外で作曲を始め、レコーディングは、アーロン・デスナーが持つNY郊外のLong Pondスタジオで開始。パリ、LA、などでも行なう。LAのVoxスタジオには、世界一と思える楽器が揃っていた。フランク・シナトラがツアーで使ったドラムキットから、『ペット・サウンズ』で本当に使われたビブラフォン、フェラ・クティのオルガン、ボールドウィンのエレクトリック・ハープシコードまで。このスタジオで過ごした2週間に、グリズリー・ベアのクリス・ベアもパーカッションで参加。
●インスピレーション
自分のヒーローであるアーサー・ラッセル、カーティス・メイフィールド、 ニーナ・シモン、 マイケル・ナウ、ヴァン・モリソン、サム・クック、ザ・ローチェス、João Gilberto、Piero Piccioni、TIm Bernardes、Tim Maia、Jai Paul、Emahoy Tsegue-Maryam Guebrouなど。温もりのある曲を集めたプレイリストを作り、それを聴きながら、毎日可能な限り曲を書き続けた。その中から一番良いと思うものを選んだ。
●アルバムの目標
死を直視しながら生命を祝福するアルバムを作りたかった。
亡くなった音楽的なヒーロー達を歌詞の中で讃えながら、サウンドでも彼らを背負おうとした。時間を超えるような、未来と過去を内包するアルバムを作りたかった。
それから、安堵のアルバムを作りたかった。離岸流の後、つま先がようやく砂についたのを感じるようなアルバムを作りたかった。
「岸」というのは、不確かな場所の淵にある安全な場所だと思った。未知への冒険に誘惑されながら、同時に安定した地に自分がいる居心地の良さを味わっている。それがこのアルバムを作る心構えだった。
●コロナで中断
2020年2月頃、アルバムの方向性に悩んでいた。レコーディングは進んでいたのに、歌詞が1曲も書けていなかった。そんな中コロナがアメリカに来てレコーディングが中断される。どうなるか分からなくなり、NYに戻る。約3ヶ月間みんなと同じように外出禁止で過ごした。
6月にNYの郊外へドライブするようになった。どこに行くとは決めないで、朝8時から夜8時まで、ガソリンスタンド以外は止まらないで。その長いドライブの間にどこからともなく歌詞が浮かんできて、3、4週間ドライブを続けたら15曲分の歌詞が全部書けた。そこからNYのスタジオでアルバムを完成させた。NYのエレクトリック・レディ・スタジオでボーカルのオーバーダブをレコーディングしたりした。
●思った事
2020年2月にどのようにアルバムを完成させれば良いのか悩んでいたが、3月になって、伝染病が広がり、プロテストが始まったら、自分のアルバムに対する悩みはほとんど消えてしまった。
さらに、生きるのに音楽は必要ないが、自分には音楽なしの人生は考えられないと確信した。
●バンドと未来について
フリート・フォクシーズというのは始まった時から2面あった。スタジオ・アルバムを作ることと、ライブ・ショーをすること。スタジオ・アルバムは、主に僕の作品であり、僕のビジョンだった。作曲も、ボーカルも、ハーモニーも、楽器のレコーディングもほとんど僕がやった。大体もう1人誰か、プロデューサーか、バンド・メイトとアルバムが完成するまで、一緒にやった。それは今も10年前もまったく同じだ。
それに加えて、僕が大好きで、尊敬する人達とライブでコラボレーションできる。
ただ今回は近い将来ライブでコラボレーションすることができないので、バンドの歴史で初めてバンドのみんなで曲を書くという実験をしようとしている。2021年には、この15曲との対話となるような9曲を発表できたら嬉しい。それらの曲は、バンドのメンバーのモーガン・ヘンダーソン、スカイラー・シェルセット、ケイシー・ウェスコット、クリスティアン・ワーゴと書いたものだ。
(→つまり、ここでロビンは、アルバムというのはこれまでもほぼ自分1人で作ってきたもので、バンド・メンバーはライブする時だけのコラボレーターだと言っている。個人的にはちょっと驚き。ちなみにローリング・ストーン誌のインタビューでは、デビュー作でどの曲で誰が何を弾いたのかクレジットしなかったのは、曲によっては楽器を弾いたのは全部僕だと言いたくなかったから、とも語っていた)
●最後に
『SHORE』を作るのを楽しんだので、みんなも楽しんで聴いてくれると嬉しい。このアルバムを巨大なラスト・アルバムだと思って作った。これがラスト・アルバムになるからではなくて、誰も未来は予想できないから。だから全力を出し切って作りたかった。長い間応援してくれてありがとう。楽しんでくれたら嬉しい
個人的にはブログでも書いた通り、「岸」と題されたこの作品で、ロビン・ペックノールドが「世界の終わり」とも新しい冒険の始まりとも言える、淵に立ち、彼が何を観るのかに注目した。「岸」というのは、彼にとって長年のテーマであったとともに、今世界中で我々が立たされている心境が、世界の終わりの淵、みたいなものだからだ。
聴き始めて2分くらいですでにこの作品が傑作と確信した。
今我々は、コロナ禍の不安に襲われ、アメリカでは警察の暴力により再びBLMムーブメントが激化し、西海岸では山火事が広がり、ダメ押しかのように人権問題と闘ってきた最高裁の判事のルース・ベイダー・ギンズバーグが亡くなった。そしてその問題すべてと強烈な結び付きを持つ大統領選が約40日後に迫るという世界の終わりの淵に立っているような心境を日々味わっている。そんな最中、ロビンはこのおおらかな作品で、人間に希望と人間性を奪回したと思うのだ。
聴き終わった後に、大きな安堵感が訪れ、胸を張って元気に生きていこうと思えた。または、明日死んだとしても、今幸せだったと言えるような満たされる作品でもあると思うのだ。
ロビンは、彼こそがそういう死の淵に立ち、深い闇に入っていたからこそ、ここまでの光を掴める作品を作れたのだと思う。2020年の今こそ必要な作品でありながらも、彼がこれまでの作品で常に追求してきたように普遍を形にできた作品でもある。文句なしにフリート・フォクシーズがこれまでに作った最高傑作だ。