モリッシーはなぜあんな顔をするのか その4
2010.06.28 20:30
(前回まではこちら。http://ro69.jp/blog/miyazaki/36445)なんとか無事、楽屋入りしたモリッシー。送迎車からそそくさと、時間にしてものの数秒くらいの間に起こった出来事について、ちょっと冷静になった宮嵜は思い起こしてみた。フェスの舞台裏の喧騒がうそのように人払いされた一画に、一台のバンが滑り込む。急停止したバンのトビラがザアッという音を立ててスライドする。そこから、意外なほどデカい体のモリッシーが出てくる(わかりやすい例として、サッカーの日本代表前監督、イビチャ・オシムを想像してみてください)。出てきたのだけど、顔がちょっと不自然な感じで傾けられているのがわかる。そして、その目は、「どこに向かってもいない」。つまり、何ものとも焦点が合わないようにへーんな感じでまばたきもしないモリッシーが、小首をかしげたまま、スタッフが開けておいたドアの向こうに消えていった。
凄い、凄いよモリッシー! 宮嵜は、たった今目の前で起こったことと、自分が17歳のときから聴いてきた音楽との「まるで形容のできない高い次元でそれらが完璧につながった瞬間」の至高体験に打ち震えた。軽く、失禁していたかもしれない。
宮嵜がさっきからいったい何のことを書いているのか、さっぱりわからないかもしれない。けれどそれは、書いている宮嵜にも説明のつかないことなのである。
ともあれ、宮嵜は真夏の幕張の風が股間を瞬く間にドライにしていくのを感じながら、たまらない達成感に浸っていた。あとは、ライブを観るのみ、である。というわけで、会場に戻り、ほかのアーティストのステージを観たり、さきほどの出来事を思い返したりなんかしながら過ごしていた。そして、気がつくと、またバックステージにいた。「そろそろモリッシーの出番じゃないか?」。そんな悪魔のささやきに、当時の宮嵜はノーガードでそそのかされていたのである。そして、さきほどよりもさらに凄い体験(お待たせしました)にブチ当たるのである。それは、スタッフのこの一言で起きた。
「アーティストがこれからここを通りまーす。いま居る方は全員、壁のほうを向いてくださーい!!!!!」
なんということだ! 見てはいけないものなのか! 周りを確認するとみな、おずおずと壁に向いて、軽くうなだれたようになっている。なんという光景。なんというシュール。そして、モリッシーは、そんな「周りにいる人間たちがみな自分に背中を向けてできた道」を、あるいはまるで「モーゼの拓いたエクソダスのような道」をひとりステージに向かおうとするのである。「モリッシーを観てはいけない」ということが、なんて「モリッシーを感じてしまう」ことなのか!!!!!!
宮嵜がもう尿漏れどころの騒ぎじゃなかったことは言うまでもない。
わけがわからずなおも続く。