今年結成10周年の節目を迎えるチャーチズが、待望のニュー・アルバム『スクリーン・ヴァイオレンス』を引っさげて還ってくる! ロバート・スミス(ザ・キュアー)と共演したシングル“ハウ・ノット・トゥ・ドゥラウン”がすでに話題沸騰中の彼らだが、パンデミックの只中でリモートワークを駆使して制作されたという同作は文字通りロックダウン・アルバムだ。
前作『ラヴ・イズ・デッド』はプロデューサーにグレッグ・カースティンを迎え、チャーチズのシンセ・ポップ・サウンドのポップネスを最大限引き出したものになっていたのに対し、再びセルフ・プロデュースに回帰し、リミックスまで全て3人でやり切ったという本作は、彼らのシンセ・ポップ・サウンドの陰陽が際立つアルバムに仕上がっている。
ブリーピーなシンセとエフェクトの効いたコーラスが現実の輪郭をブレさせていく“ヒー・セッド・シー・セッド”のように、ここには現実逃避が生む陶酔の感覚が宿っている。そして同時に逃避した先でひとりぼっちの孤独や不安に苛まれて揺らぐ、極めてパーソナルな感情も息づいているのが本作でもあるからだ。
そんな本作の陰陽の分かれ道で番人のように佇むのがロバート・スミスなのだから堪らない。“ハウ・ノット・トゥ・ドゥラウン”のダークでエレガントなインダストリアル・サウンドに乗せて、ローレンと彼はまるで互いの欠けたピースを埋めるように、共鳴するように声を重ね合わせていている。
もともとチャーチズはザ・キュアーの熱狂的な信奉者であり、本作に宿る陰陽、ハッピー・サッドの感覚それ自体がキュアーから受け継がれたものなのだから、相性がいいのは当然なのかもしれない。
ちなみに同曲はマーティン・ドハーティが絶望的な鬱と不安を抱えていた時期に書いたそうで、その曲をロバスミに歌ってもらうとはファン冥利につきるのではないか。タイトルの『スクリーン・ヴァイオレンス』はかつてバンド名の候補に挙がっていたこともある彼らにとって普遍的なテーマであり、「スクリーン越し」の日常を強いられたパンデミック下の私たちにとってもジャストなテーマだろう。次号インタビューで直撃します! (粉川しの)
チャーチズの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』8月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。