【追悼ドロレス】波乱に満ちた生き様、そして永遠に生き続けるクランベリーズの歌について

【追悼ドロレス】波乱に満ちた生き様、そして永遠に生き続けるクランベリーズの歌について

去る1月15日、クランベリーズのドロレス・オリオーダンが亡くなった。世界中から哀悼の言葉が寄せられた様子を見るまでもなく、彼女がその素晴らしい声と歌唱力で、90年代のロック・シーンにおいて最も輝いたシンガーのひとりであったことは間違いない。

筆者は2009年に1度だけドロレスにインタビューした。2枚目のソロ・アルバム『ノー・バゲッジ』をリリースするタイミングで、それまで5年ほど活動停止していたクランベリーズも再始動してツアーに出るとアナウンスされたところだった。

90年代に世界的なブレイクを果たし、まさしく時の人となっていた当時の彼女は、取材現場において「キツい女性」というか、ともすれば「おっかないネエちゃん」といったイメージを少なからず持たれていたと思う。しかし、2009年の時点ではすでに落ち着きを感じさせ、いい人だという印象しかない。巨大な成功に翻弄され、懸命に自己を保とうとしていた朴訥なアイルランド娘は、母となったことで大きな心の支えを得たのだ。

子供がいなかったら私、きっと死んでた。カート・コバーンや、若くして命を落とした他のシンガーと同じように、今頃は墓の下だったと思う。でも子供たちが、私に生きる意味をくれた。それこそ、かけがえのない贈り物ね。現実ってこういうものなんだっていうことも、落ち着いて地に足をつけて生きる意味も、子供が教えてくれたの。


特に3人目の子供を産んだ時の経験は、人生で最も忘れがたい、ずっと大切にしていきたいと感じた瞬間になったそうだ。3度目ということで少し余裕もできたのか、産道を通って出てくる赤ん坊の頭に触れ、小さな額から伝わってくる鼓動を感じとったことで、とても心が安らいで無事に出産できたのだという。

「その時、肩の力を抜いて、起きることをそのまま受け止めるのが大切なんだっていうことを悟った。生まれるか生まれないかくらいの子に、そう教えられたのよ」と、ドロレスは語っている。


その後10年近くの間、2014年には離婚したり、そのストレスからか飛行機内で暴れて逮捕されたりもした。また昨年5月には、双極性障害であると2年前になって診断されたことも告白している。それでも、「波乱の」と形容してもいい生涯で、彼女が以下の発言のような心境に到達していたことは確かだ。

今は普段の生活を伸び伸び生きられるようになった。新しい日が来ることをありがたく思えるし、毎日を楽しめる。人生、いつ死ぬか誰にもわからないし、明日はこの世にいないかもしれない。どこまで生きられるかわからないからこそ、その日をしっかり楽しもうって気持ちになる。


だからドロレスはきっと、アーティストとして、それ以上に母親として、人間として、たとえ短くとも充実を実感した日々を送ったはずだ。そして、彼女が残した作品および、多くの人々の心の中に、あの歌声は永遠に生き続けるだろうということに、せめてもの慰めを見出したい。(鈴木喜之)
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