【コラム】あといくつ寝ると、くるりの再現ライヴ第2弾。改めて3rd『TEAM ROCK』&4th『THE WORLD IS MINE』を聴く
2015.09.26 12:00
2016年に迎えるバンド結成20周年に向けて、『くるり 20th ANNIVERSARY「NOW AND THEN」』という、いわゆる「再現ライヴ」を今年から行っているくるり。2015年4月には、1stアルバム『さよならストレンジャー』+2ndアルバム『図鑑』の再現ライヴを行った。その再現ライヴシリーズの第2弾が11月から全国13ヶ所で行われる。今回は、3rd『TEAM ROCK』と4th『THE WORLD IS MINE』の再現ライヴとなる。
『TEAM ROCK』が発売されたのは2001年2月。バンドとして大きな評価を得た『図鑑』から、さらにポストロック的なアプローチに寄り、大胆なエレクトロニカやハウスサウンドを導入した意欲的な作品だった。方向転換、というより、もともとどの方向にも行ける自由度を持つバンドが、このアルバムで選んだのはその方向性だった、ということなのだが、従来のくるりが持つフォーキーなポップセンスとこの実験性とが絶妙なバランスで成立していて、2001年当時、個人的に一番よく聴いたアルバムはこの『TEAM ROCK』だったりする。どこか、大きな世界を目の前にして身構えているようにも聴こえるし、その状況を俯瞰して楽しんでいるようでもある。バンド結成5年目にして、東京にもすっかり慣れてきたような、まだなじめないような、そんなナイーヴさと、どうでもいいと放り出すシニカルさ、その気持ちの揺らぎが、バラエティ豊かなサウンドにそれぞれとてもマッチしていた。《君は歌う 安心を買ったって/俺も欲しい心から》(“愛なき世界”)、《安心な僕らは旅に出ようぜ/思い切り泣いたり笑ったりしようぜ》(“ばらの花”)と歌われるように、「安心」というキーワードが、頭に残るアルバムでもある。誰だって安心が欲しいと思う、でも安心を手に入れたからといって、それを守るために同じ場所に留まるなんてつまらない、迷ってもいい、余計に悩みを抱えてもいい、早く次の旅に出よう。そんなくるりのスタンスが、この『TEAM ROCK』には明確に表われている。
『THE WORLD IS MINE』は、『TEAM ROCK』からおよそ1年後、2002年3月に発売されたアルバム。前作と今作との間には、「9.11」、アメリカ同時多発テロがあり、世界は大きく動揺していた。だからといって、このアルバムにあからさまにポリティカルな楽曲があるわけではない。ただ、全体に漂う重さや、アルバムタイトル(新井英樹の漫画にインスパイアされたと言われる)は時代の空気を反映していたと思う。前作のエレクトロニカ路線をさらに推し進め、アルバム全体としてサウンドプロダクションの完成度が高い作品で、“WORLD’S END SUPERNOVA”や“男の子と女の子”など、ファンの間でも人気の高い名曲も多い。このアルバムが発売された当時は、誰もがどこか引き摺るような虚無感を感じながら、混沌とした世の中を悲観し、少なからず「世界」を意識した時期だったと思う。しかし、1曲目の“GUILTY”では《金持ったら変わるんかな/誰かを守るために変われるかな/すぐに忘れるわ/こんなこと》と突き放すように歌われて、そんな気分さえもどこか嘘くさいと言われているような気がして、ドキッとしたことをよく覚えている。また、このアルバムのラストを飾るのは“PEARL RIVER”という曲で、《月の夜に願いました/あてどなき旅の終わりを》という歌詞は、どこに向かっているのかもわからないまま生きている私たちの不安やネガティヴな気持ちを、そのまま映しているかのように感じられたのだ。意図的ではないと思うが前作の『TEAM ROCK』のラストも“リバー”という曲だった。“リバー”は自ら進んで「川」の中に飛び込むという力強さを感じさせた。一方“PEARL RIVER”は「河」。もっと大きな、自分の力で抗うことのできないうねりに身を委ねるしかないという状況を表現していたようにも思う。
『TEAM ROCK』の延長線上にありながら対照的な肌触りを持つ『THE WORLD IS MINE』。表裏一体かのように存在するこの2作品を、約15年という年月を経て、現在形のくるりがどう再現するのか、私たちにどう響くのか、ものすごく楽しみでありながら、少しドキドキもしている。特に、2015年のくるりが演奏する『THE WORLD IS MINE』は、私たちをどんな気持ちにさせるのだろう。現メンバーであるファンファンが産休に入ったこともあり、ライヴでの編成も気になるところ。ともかく、くるりにとって非常に重要な意味を持つこの2作品、これを再現するライヴは、おそらく再び観ることはできないだろう。最近の作品しか聴いていないというファンも、ぜひこの機会にこの2作品に触れてみてほしい。(杉浦美恵)