年明けの来日ラッシュが到来ということで、MGMTは大阪、名古屋、東京と3公演のジャパン・ツアーを敢行。そのファイナルとなる新木場スタジオコーストで、アンドリューは本編終盤に、2011年のツアーのことを振り返ってか「ここは本当に素晴らしい場所だよね。また戻って来れて嬉しいよ」と語っていた。MCらしいMCと言えばこの言葉と曲間に放たれる「サンキュー」ぐらいだったのだが、楽曲のパフォーマンスだけでお釣りが来るほど充実した内容だった。というか、MGMTはこんなにもカッコいいライヴ・バンドになってしまっていたのかと、心底驚かされた。
今回のMGMTジャパン・ツアーでは、全公演に渡ってジャパニーズ・ノイズコアの20年選手であるMelt-Bananaがサポート・アクトとして帯同。これまた面白い組み合わせである。昨年には約6年ぶりとなるスタジオ・アルバム『Fetch』をリリースしていた。ヒステリックなようでいてどこかキュートなヴォイスを振り撒くYakoと、全速力でギターを搔きむしるAgataの耳を劈くようなコンビネーションが繰り広げられる。2人きりのステージで、Yakoが手元の煌めくコントローラーによってブラストビートのトラックを操作しているらしいのだが、それでもなぜ2人の呼吸がドンピシャリで決まるのかさっぱり分からない。2年ぶりぐらいに観てこのスタイルは初めてだったが、Melt-Bananaの迫力とヴォルテージはまったく損なわれていない。「短い曲を、8曲やります」と告げてからの、ファストコア・ナンバー連打が痛快であった。
さて、いよいよMGMTだ。6ピースのバンドによる、この静かに寄せては返す美しいサウンドスケープは……いきなりの“Congratulations”だ。背景一杯のサイケデリックなVJ演出も相まって、セカンド・アルバム最終トラックの、狂騒との格闘の「その後」が綴られ始めるという、ドラマティックな展開にグッと来る。アンドリューの伸びやかなファルセットと、ベンのピアノによるアルペジオの交錯によるフィニッシュも素晴らしい。そして、“Time to Pretend”のイントロに歓声が巻き起こる。メンバーの姿を捉えた映像が極彩色のサーモグラフィのように映し出され、豊かなハーモニーに満たされてゆく展開だ。新作『MGMT』からは、まず“Cool Song No.2”を披露。ファットなビートが鳴り響き、深く沈んだところから力を込めて歌い上げてゆくアンドリューの姿も新鮮。何と言うか、頭からパラソルを生やしたトナカイエビというか、異形のエイリアンが2本足で歩くヴィジュアルを背に、強烈なコズミック・グルーヴを練り上げる。
今回のジャパン・ツアーにおいても、それぞれの公演でセット・リストは異なっていたようだが、巧みなソングライティングのビート・ポップ“Flash Delirium”に続いてはまたもや喝采を巻き起こす“The Youth”、そして宇宙空間を鳥が舞う映像で壮大な曲調を後押しする“Of Moons, Birds & Monsters”と、新作に捕われない選曲でパフォーマンスが進む。“Introspection”で小さなリコーダーを吹くベンの腕前は「?」な瞬間もあったが、その都度セット・リストが入れ替えられていることを考慮しても、今のMGMTのライヴ・バンドとしての実力はかなり高いレヴェルに達していると言えるだろう。ノイジーなサウンドがシンフォニーのように届けられる中、デヴィッド・ボウイばりの哀愁漂うメロディが映える“Weekend Wars”も、楽曲のスケール感を押し広げる名演であった。
めくるめく展開の大作ポップ“Siberian Breaks”が、今の彼らの表現力をもって披露されたのは本当に嬉しかった。砂漠に佇む灌木を捉えた映像と、途方に暮れながら思いを巡らす心象がシンクロしてゆく。終盤戦も力強さを損なうことなく、“Electric Feel”から“Mystery Disease”でエモーションとサイケ・グルーヴがしっかり手を取り合って突き進み、ひと呼吸置いて繰り出されたのは“Kids”だ。今の演奏スキルを遠慮なく落とし込む、完璧なハイライトの演出であった。アンドリュー含む4人のキーボード演奏で、華々しい長尺ジャムへと移行するさまが凄い。DJたちも好んでプレイしてきたアンセム(2manydjsでは必ず盛り上がる鉄板ネタだし、先頃の『electrox』においてもトミー・トラッシュらがプレイしていた)であり、若い世代を象徴するアンセムを生み出したがゆえに、MGMTは時代の寵児として脚光を浴び、混乱を経験した。あるいは今でも、その混乱のまっただ中にいるのかも知れない。
ただ今回の“Kids”は、アンセムを生み出した責任を自ら負う、何か覚悟の決まったような響き方でオーディエンスを跳ね上がらせていた。ひたすら刺激的な映像演出といい、捩じれながらも力強さで説得力を持たせる演奏といい、MGMTは例えばフレーミング・リップスやディアフーフのように、オルタナティヴな価値観でしか救えないものを手放すことなく、しなやかに成長してゆくバンドになるのではないか。そんな気がした。この力強いパフォーマンスがあるならば尚更、“A Good Sadness”や“Astro-Mancy”といった新曲群も聴きたかったという気持ちは募るけれど、辿り着いた本編ラストはまたもやトナカイエビのエイリアンが現れて増殖する“Alien Days”。居心地の悪いエイリアンでありながら、時にはめちゃめちゃ楽しい。そんなMGMTのステージのエンドロールのように目に映った。
さてアンコール。各公演で参加者の中からカウベル奏者を募る、というユニークな趣向が盛り込まれていたが、新木場スタジオコースト公演についてはRO69がツイッター上で募集を行っていた。メンバーと一緒に姿を見せたのは女性ファンで、巨大なカウベルを木刀みたいなスティックで打ち鳴らし、“Your life Is A Lie”の演奏に参加である。楽しそうなので良かったけれど、見た感じ、一曲まるまる叩き続けるのはなかなか大変だったのではないか。おつかれさまでした。アンドリューは晴れやかな笑顔で「また今度ね!」と告げていたので、再来日に期待したい。(小池宏和)
01 Congratulations
02 Time to Pretend
03 Cool Song No.2
04 Flash Delirium
05 The Youth
06 Of Moons, Birds & Monsters
07 Introspection
08 Weekend Wars
09 Siberian Breaks
10 Electric Feel
11 Mystery Disease
12 Kids
13 Alien Days
EN Your Life Is A Lie