ライブタイトルと三日月のロゴをプリントしたバックドロップが掲げられた野音のステージに登場した5人。まずは最新シングル“エリーゼのために”をブチかまし、客席を大きく揺らしていく。さらに「Fuck up!」のシャウトで野音をカオスの渦に落とし込んだ“ナカユビ”、極彩色のアンサンブルで野音を艶やかに彩った“NATIONAL MADIA BOYS”と、最新曲から90年代初期の曲まで飛び出す展開でオーディエンスを翻弄。初っ端から25年のキャリアを見せつけるその展開は去ることながら、力強いビートと力強いメロディでオーディエンスを熱狂の渦へと引きずり込んでいく楽曲の威力さに改めて驚かされる。
4曲目“蜉蝣 -かげろう-”からは、退廃と官能に彩られたB-T流メランコリアが炸裂。ダイレクトに腰を刺激するエレクトロ・ビートの上でシンセサイザーとギターの音色が物哀しく響く“羽虫のように”もすばらしかったが、雄大なサウンドスケープの上で《空に舞って 降り注いで》《帰ろう 雨あがり虹の彼方へ》と伸びやかに歌われる“空蝉 -ウツセミ”が、サーッと雨が降り注ぐ空模様にマッチしていて最高だった。
ヤガミ・トールのダイナミックなドラミングから“REVOLVER”へ雪崩れ込むと、ステージ後方のバックドロップが落ちて大量のライトが露に! 強烈な光がビカビカと点滅する中、地を這うビートが先ほどまで固唾を呑んでステージを見守っていたオーディエンスの身体を激しく揺らしていく。ステッキを突きながら甘美な歌声を届ける櫻井の姿がオーラありまくりだった“ROMANCE”を経て、「さあ、踊ろう!」と突入した終盤戦は、クライマックスへ向けてノンストップのダンスタイム。“Django!!! -眩惑のジャンゴ-”ではタンバリンを打ち鳴らす櫻井の隣で今井が妖しく舞い踊り、“独壇場Beauty -R.I.P.-”ではそれまで後方にいたベースのユータが、ギター隊2人とともにステージ前方に一直線に並んで骨太なアンサンブルを奏で……と、4つ打ちで押しまくるダンサブルなサウンドに乗って一気に躍動感を増したメンバーのパフォーマンスからも目が離せない。そして本編ラストは“Baby, I want you.”。ザクザクと不敵に突き進む分厚いグルーヴ、そして今井が繰り出すテルミンの音が日比谷の空の上へと突き抜けて、あっという間のクライマックスを迎えた。
ダブル・アンコールでは、“真っ赤な夜 -Bloody-”“天使は誰だ”の連打で再び野音を燃え上がらせる。そして「さあパレードが始まるよ。パレードが行くよ、みんなの街へ」と櫻井が言って大ラスに鳴らされたのは“スピード”! 7月4日リリースの25周年記念トリビュートアルバム『PARADEⅡ』、それに先駆けた対バンツアー、そして9月22・23日に2DYSで開催されるバンド主催のフェス「BUCK-TICK FEST 2012 ON PARADE」……と「パレード」の名を冠した25周年記念企画が今後は目白押しの彼らだが、そんな「パレード」の開幕を一足先に告げる祝祭歌として、今夜の“スピード”はいつも以上に華々しく鳴っているような気がした。
アルバムを引っ提げたツアーでは、毎回コンセプチュアルな世界観を見せつけてくれる彼ら。しかし今回はスペシャル・ライブ、しかも野音のシンプルなステージということも手伝って、バンドとしての素のかっこよさがいつも以上に浮き彫りになったアクトだったように思う。それによって見えてきたのは、BUCK-TICKというバンドの存在感と吸引力の凄さ。衝動に任せて激しくギターを掻き鳴らすわけでもない、オーディエンスを力強くアジテートするわけでもない。楽曲にしても「しっかりとしたリズム」と「しっかりとしたメロディ」が淡々と推移していくものが多い。にもかかわらず、こんなにもスリリングで、官能的で、美しい世界を築くことができるのは、聴き手の心をどうしようもなく震わせる根源的なパワーをバンドそのものが持ち合わせているからだと思った。しかも25年のキャリアを経て、その威力がどんどん増していることに驚かされる。改めて稀有なバンドだと思ったし、こういうバンドが25年間もの長きにわたって多くのリスナーをワクワクとさせ続けていることが、本当に嬉しい。気が早いかもしれないが、30周年、40周年……と逞しく歴史を刻んでいくバンドの姿がありありと目に浮かぶような、圧巻のアクトだった。(齋藤美穂)
1.エリーゼのために
2.ナカユビ
3.NATIONAL MEDIA BOYS
4.蜉蝣 -かげろう-
5.羽虫のように
6.空蝉 -ウツセミ-
7.MISTY ZONE
8.Memento mori
9.原罪
10.ノクターン –RAIN SONG-
11.幻想の花
12.REVOLVER
13.ROMANCE
14.Django!!! –眩惑のジャンゴ-
15.独壇場Beauty –R.I.P.-
16.Baby, I want you.
アンコール1
17.疾風のブレードランナー
18.夢見る宇宙
19.MY FUCKIN’ VALENTINE
アンコール2
20.真っ赤な夜 -Bloody-
21.天使は誰だ
22.スピード