ハナレグミ @ NHKホール

ハナレグミ @ NHKホール - pics by 仁礼 博pics by 仁礼 博
ハナレグミの最新アルバム『オアシス』を引っ提げた全国ツアーのNHKホール公演2DAYSの2日目。昨年9月7日のアルバムリリース以降、リリース直後の代々木競技場第二体育館2DAYSライブ「オアシス〈YOYOGI DE 360° ステージ囲みまくって熱唱しまくっちゃいナイト〉」(ライブレポートはこちら→http://ro69.jp/live/detail/57542)、その後の弾き語りシリーズ「弾きが旅だよ人生は!」、東京・大阪でのライブハウス公演「live house live」(ライブレポートはこちら→http://ro69.jp/live/detail/60852)……と、それぞれ趣向を変えたライブ企画の実施を経て、満を辞してのリリースツアーである。

19:12、SEのスタートともに客電がゆっくりと暗転。そこにハナレグミ=永積タカシの透き通った歌声が放たれるなり、「わー!」という歓声と拍手が沸き起こる。突如キラキラとした輝きに包まれる場内。まだツアー中盤なので曲名は明かせないが、歌い出しの一声で瞬時に空気を塗り替えてしまう、ハナレグミならではのマジカルなパワーが活きたオープニングだ。エマーソン北村(Key)、おおはた雄一(G)、みどりん(Dr/fromSOIL &”PIMP”SESSIONS)、真船勝博(B)、KUNI(Tp/from SLY MONGOOSE)、ヤマカミヒトミ(Sax)という編成で紡がれる、繊細かつダイナミックなバンド・アンサンブルも素晴らしいの一言。“あいのわ”では柔らかなサウンドスケープを伸びやかに広げたかと思えば、“Crazy Love”では軽快なレゲエ・ビートで客席をまったりと揺らしていく。あくまで肩の力が抜けていながら、確かなスキルに裏打ちされた歌と音が幸福の輪をぐんぐん広げていくさまは、観ていて本当に清々しいほどだった。

ハナレグミ @ NHKホール
演出面では、とにかくライティングが素晴らしかった。2本のヤシの木が置かれている以外は目立った装飾のないステージセット。そんな中で、代々木競技第二体育館2DAYSライブでも置かれていた「OASIS」の5文字をかたどった電飾が時折パッと点灯したり、ステージ後方に吊り下げられた白布が美しく照らされたりしながら、楽曲ごとのイマジネーションを膨らませていく。その他にも驚きの演出がいくつかあったのだけど、それは観た人だけのお楽しみ。さらに見逃せないのが、永積の至って自然体なふるまいだ。客席から飛ぶ「タカシー!」」とか「かっこいい!」とかいう声に「自由でいいねぇ」と返したり。「タカシ、ウイスキー歌って!」というリクエストに応えて「サントリー 角ハイボール」のCMでお馴染みの“ウイスキーが、お好きでしょ”を即興で披露したり……。ユルくて気ままなテンションで客席との距離を縮めていく親密な空気感は、他のアーティストのライブではなかなか味わえないものだと思う。

しかし何と言ってもすごいのは、永積タカシの歌の力だ。もう、込められる感情量と求心力がハンパない。ウィスパー、ハイトーン、シャウトやダミ声までも駆使して一音一音に魂を吹き込んでいくその歌声は、「歌がうまい」とか「技巧的である」とかいう観点から見ても相当レベルの高いものだろう。しかし、それを凌ぐもっと根源的なパワーみたいなものが、ライブを観るたびにみるみる高まっているような気がするのだ。言うなれば、どんどん開放的で無垢になっている感じというか。だからこそ、ディープな心象風景をひそやかに綴った“Spark”であれ、リズムに身を委ねる楽しさを全解放させたような“オアシス”であれ、「かたかたち!」というフリーキーな歌声に遊び心がふんだんに盛り込まれた“か!た!!かたち!!!”であれ、聴く者の心をダイレクトに揺さぶる圧倒的な力に溢れている。まるで感情の原石を取り出したかのように、ピュアで奔放なエネルギーを湛えた歌声の留まることない進化には、改めて驚かされるばかりである。

ハナレグミ @ NHKホール
アンコールを含めて全19曲、2時間強。聴き手ひとりひとりの心にまっすぐ潜り込んでいくような歌声と、一切のトゲや力みを感じさせないリラクシンなムードに酔わされた、極上のアクトだった。3月3日の沖縄でのファイナル公演まで、本ツアーは残り7公演を予定している。今日この場に訪れた観客を一人残らず至福の世界に導いたプレシャスな空間が、全国の各会場でも築かれることだろう。(齋藤美穂)
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on