【特集】ステージもフロアも終始ハイボルテージで駆け抜けた、終活クラブの初クアトロワンマンツアー。快楽と生き様が炸裂したライブをレポート!

【特集】ステージもフロアも終始ハイボルテージで駆け抜けた、終活クラブの初クアトロワンマンツアー。快楽と生き様が炸裂したライブをレポート! - All photo by Takei YukiAll photo by Takei Yuki
「クアトロツアーまでに1回バズってやろうと思ったけど、全然バズらんかったわ」

冗談半分、悔しさ半分といったテンションで、少年あああああ(Vo・G)はMCで言った。確かにMVやサブスクの再生数、SNSのフォロワー数あたりを指標として見るなら、終活クラブは大きくバズったということではない。ということは、彼らの魅力はリスナーまで届いていないのか? だとしたら、このギュウギュウに埋まった渋谷クラブクアトロに立ち込める熱気と一体感に説明がつかない。

「バズる=人気や実力」があるという図式は成立しないのだという、当たり前なのに忘れてしまいがち(特に若手においては)な事実を、とりわけバンドシーンにおいては忘れてはならない本質を、まざまざと見せつけられる2時間だった。

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弾むようなSEと同時にカラフルな照明がステージを染め、ひとりずつ駆け出してきたメンバーが思い思いのポーズを決めてから定位置につく。「やってきたぞ、渋谷クアトロ!!」という興奮気味な少年の叫びから“しょうもないなあ”でライブの口火を切った。ハイテンポな四つ打ちと祭囃子のエッセンスで瞬く間に熱狂状態が生まれるフロアへ、羽茂さん(Key)がハンドマイク片手に身を乗り出して拍車をかけていく。サポートベースの中尾佳介がお立ち台で弾いたソロから突入したのは、“マイ魔法陣を囲むダンス”。スラップで生み出すファンキーなノリは軽妙だが、後ろを支えるファイヤー・バード(Dr)の四つ打ちビートがとんでもなくマッシブで、会場をビリビリと震わせる。

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曲が始まった瞬間にすかさずクラップが巻き起こった“◯◯◯◯”しかり、前述した「バズらなかった」発言から《いい加減そろそろバズりたい》のコール&レスポンスへと繋げてみせた“テレキャス2”のサビの《(オエオエオ)》という合いの手しかり、オーディエンスのレスポンスの速さと正確さには度肝を抜かれた。楽曲自体がちゃんと浸透していることの証明だけでなく、半強制的にノせるポイントや思わず参加したくなる仕掛けがふんだんに、綿密に仕込んであるのが彼らの強みだ。ライブの楽しみ方は様々だが、観客が能動的に動き、踊り、ハイになっていくタイプのライブ運び──2010年代に隆盛を極めたフェスロックのDNAを今に受け継ぐタイプの、気持ちいいところ詰め合わせセットとも言うべき前半の流れであった。

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そんな狂騒を支える要素として、各メンバーの仕事量の多さも見逃せない。羽茂さんは鍵盤奏者としてだけでなくアジテーションやサブボーカルとしての役割を果たすし、石栗さん(G)はシャープなカッティングを刻んだかと思えば、ガンガン推進していく曲の後ろでひたすらソロみたいな単音フレーズを弾き続けていたり、ギターソロになればお立ち台に飛び乗って大振りで挑発的なアクションで魅了。そこに滲む俺様ぶりとナルシズムはだいぶクセになる。そしてフロントマンの少年は言葉数の多い歌詞をはっきりと発声しながら、ファルセットを交えたりシャウト気味にがなり立てたりと表現の幅を見せつけ、文字通り「少年」のような屈託ない笑顔でも我々を撃ち抜いてくるのだ。

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心底嬉しそうに語る少年によれば、彼らにとってクアトロでのライブはひとつの夢であったそう。かつて「クアトロを埋められたらバンドで飯を食える」という胡散臭い話を下北沢で聞いたからだという夢の原点も明かしたあとは、“幽霊”、“もうすぐゆうれい”と、最新アルバム『メジャーな音楽』でも並んで収録された2曲を披露。冒頭のブロックとはやや様相を変え、クリーントーンのギターによるループするフレーズで浮遊感を生み出したり、流れるようなピアノが入ったり、ミステリアスなコードに呪文めいた歌メロの乗せ方をしていたりと、やや角度をつけたタイプのライブチューンで攻める。こういったボカロなどインターネット由来の音楽からの影響も、終活クラブの音楽において見逃せない要素。そこへ人力ならではのグルーヴが加わることで、ライブそのものにさらなる奥行きを与えている。

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「もともと僕はひとりで音楽を配信していたの。それは箸にも棒にもかからない、きっと5人くらいにしか届かなかった」

“駄文”までを終えたところで、これまでの活動を振り返るMC。当時の音源を聴いた今のマネージャーから「バンドでやりなよ」と言われ、それが自分の人生で最後のチャンスだと感じたこと。当時はコロナ禍で、所属バンドを辞めてしまった有名プレイヤーを紹介してもらう選択肢もあったが、人生最後のバンドとして「いつか一緒にバンドやろうぜ」と話していた友達たちとの約束を果たしたかった。そうして結成されたから自分たちは「終活クラブ」と名乗っている。残りの時間はわからないけど、それがずっとだったらいいと思う──と少年は語った。そんな彼らの「始まりの曲」として演奏されたのは“六畳にて”だった。ここまでより明らかに重厚さを増したプレイにはロックバンドの醍醐味が滲む。メランコリックなピアノリフとリリックを有する“零落”に、スローテンポながら撃ち抜くようなビートとシューゲイザー調の歪んだギターが絡み合う“絵画を書く”が続き、参加型のフィジカルなライブスタイルは、いつの間にか自分たちの心象や生き様をエモーショナルに吐露するターンへと変わり、ライブの没入感とドラマ性をもう一段上げていく。

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《キラーチューンを書きたい》《向こう十年遊んで暮らせるような/大金持ちになりたい》という身も蓋もない欲望から始まっておいて、《キラーチューンを書きたい/君のこと確かに生かすような》《君の「死にたい」は僕が歌う》という本質に迫るパンチラインが飛び出す“キラーチューン”に心打たれたのも束の間、石栗さんとファイヤー・バードによるMCと寸劇と茶番を足して3で割らない時間が到来。かと思えば、もうすぐチームを離れる予定のレーベルスタッフへの想いを少年が口にしたりと、観る者の情緒を迷子にさせながらライブはラストスパートへ向かっていく。真っ赤に染まったステージからゴリゴリのベースと鋭いシンセが放たれた“ビトビト”でフロアを大いに沸き立たせ、万雷のクラップとともに突っ走った“感情とマキシマイザー”、さらには“テレキャスター・テレキャスター・テレキャスター”と、ダンサブルな高速ナンバーを連投していけば、フロアは序盤をも上回る熱と一体感で応える。“インターネットやめたい”での高速ワイパーにジャンプ、オイ!コールなんてちょっと引くぐらいすごかった。

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MVにも登場したグリーンマン(緑の全身タイツ)とウサギ(着ぐるみ)を呼び込み、フロアではタオルがぶん回されるカオスな空間を作り出した“地球破壊のマーチ”、高速四つ打ちロックのお手本みたいなサウンドに横ステップのノリを加えた“タラッタ人生論”、ツアータイトルにもなっている“メジャーな音楽”まで一気に走り抜けたあと、ゆったりとループする3拍子の音に乗せ、ハンドマイクの少年が“無名芸術”をじっくり歌い上げて本編は終了。アンコールではミラーボールが回る中、人力ダンスミュージック“エキチカダンスフロア”が2連投され、2回目はお面を装着した状態となり撮影OKにするというサービスも。2026年の恵比寿リキッドルームワンマンを発表したあとのオーラスは、祝福ムードに後押しされたフルMAXのテンションで“ハイパー005”。なんとも痛快な余韻を残していった。

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ライブ以外では顔出ししないスタイルや一風変わったバンド名、メンバー名から、もうちょっとシニカルでダークな表現を想像する人もいるかもしれない。しかし彼らの実態はその逆だ。もちろん、痛みや鬱屈した感情の類いは内包されてはいるが、それを引っくるめてポップでロックなエンターテインメントへと昇華している。そして、クアトロ→リキッドと偶発的なバズに頼らず一歩一歩着実に階段を上っていく姿は、バンドイズムのど真ん中。歓喜のクアトロツアーファイナルを目の当たりにした今、このままどこまでだって進んでいきそうな頼もしさを覚えるとともに、彼らの「終活」がいつまでも終わらないことを願わずにはいられない。(風間大洋)

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●セットリスト
終活クラブ QUATTRO ONE MAN TOUR 2025「メジャーな音楽」
2025.12.3 東京・渋谷クラブクアトロ

01. しょうもないなあ
02. マイ魔法陣を囲むダンス
03. 〇〇〇〇
04. テレキャス2
05. 恋
06. 幽霊
07. もうすぐゆうれい
08. 足りない
09. 駄文
10. 六畳にて
11. 零落
12. 絵画を書く
13. キラーチューン
14. 劇伴
15. ビトビト
16. 感情とマキシマイザー
17. テレキャスター・テレキャスター・テレキャスター
18. インターネットやめたい
19. 地球破壊のマーチ
20. タラッタ人生論
21. メジャーな音楽
22. 無名芸術

Encore
23. エキチカダンスフロア
24. エキチカダンスフロア
25. ハイパー005

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