WOMB ADVENTURE ’11 @ 幕張メッセ国際展示場 10、11番ホール

渋谷・WOMBのプロデュースによる、すっかり冬の入り口のイヴェントとして定着した観のある屋内ダンス・ミュージック・フェスティヴァル=WOMB ADVENTUREは、今回で4年目となる開催。トップ・アーティストたちのパフォーマンスというだけには留まらない、レーベル・カラーや世界各地を賑わすアーティスト主導のパーティをそのまま持ち込むスタイルが刺激的である。今年はクリック・ミニマル界の寵児・ルチアーノのレーベルであるCADENZAの面々が挙って来日し、イビザ発信のパーティ『CADENZA VAGABUNDOS』を披露してくれるという趣向。WOMB ADVENTURE公式ホームページのルチアーノ・インタヴューによれば、既に大きな話題を呼んでいながらもまだまだ多くの趣向を考えている最中というフレッシュなパーティだ。日本に居ながらその成長過程に参加することが出来るというのは、極めてエキサイティングである。

会場内には、CADENZA VAGABUNDOS ARIA、WOMB WORLD WIDE AREA、0oooze×RAFT TOKYO AREA,“Red Energy”AREAと4つのDJブース/ステージを中心としたダンス・エリアが設けられており、筆者はこのうち最も規模の大きな前2つのエリアを中心に観て廻ったので、レポートもそちらに沿って進めたい。オープニングDJのSATOSHI OTSUKI+TAKUYA+KIKIORIXが温めたCADENZA VAGABUNDOS ARIAでは23時、スペシャル・ゲストとして招かれたカール・クレイグのDJがスタート。いきなり豪華である。ビョーク“コクーン”のひんやりとした美しい歌声を掴みに用い、デトロイト印のコズミックなテクノ・ビートでフロアを沸かせ始めた。なんとも貫禄の芸風。こちらのステージ上は大理石の柱やクラシックな小振りのシャンデリア、鹿の首の剥製などが配置されており、趣を感じさせる大きなリビングルームに招かれたようなステージ・セットだ。それにしても、PAブースはこの広大なエリアの最後方に構えられているだけあって、音響にもずいぶん配慮が行き届いている。

一方のWOMB WORLD WIDE AREAでは、DJ Akiのオープニングに続いてペンデュラムがDJセットで登場。豪州のドラムンベース・バンドとして名高い彼らだが、DJとは言いながらフロントマンのベン・“ザ・ヴァース”・マウントも参加して煽り立てるガチ上げセットである。そしてこの後のWOMB WORLD WIDE AREAは、フレンチ・エレクトロの10余年を駆け足で振り返るような顔ぶれがズラリと揃う。ひっきりなしに酒と煙草を口元に運びながら、ラップトップ上のソフトを使わないCDJとミキサーによるフィジカルなプレイで、ブリーピーなディスコ・サウンドを鳴らしたのはカシアスだ。世代的に耳にフィットしてしまうだけなのかも知れないが、帰ったら久々に作品を引っ張り出してやろうと決心させるまでに幾らも時間はかからなかった。

続いてEd Bangerのボスであるペドロ・ウィンターのビジーP、今夏のサマーソニックから間を置かずに来日である。センチなメロディとタメのあるキックを次々に繰り出す、手堅いファンキー・エレクトロをプレイ。当然と言うべきかジャスティスも織り交ぜる。更にはこの11月にアルバム『USA』のリリース・ツアーを行ったサーキン。細やかなカットとブレイクをガンガンに突っ込んでくるプレイで深い時間を熱くしてくれた。スターダスト“ミュージック・サウンズ・ベター・ウィズ・ユー”のリフレインも響き渡る。さてその頃、CADENZA VAGABUNDOS ARIAも本番を迎え、昨年のWOMB ADVENTURE ‘10に引き続き参加のロバート・ディーズが登場する。硬質にしてファンキーなパーカッションのループを盛り込む、スピリチュアルな時間を練り上げるようなプレイはさすがCADENZA印というところか。ロバート・ディーズと並んでフランクフルト出身のリブートことフランク・ハインリヒはライヴ・アクトとしてのパフォーマンスだ。クリック・サウンドなのにどこかオーガニックな構造を持ったトラックが、ライヴならではの鋭い出音で迫る。フロアのあちらこちらに肩車をした人柱が立ち、ステージ方向から大量に吹き出すスモークがピーク・タイムの到来を告げるのだった。

そして午前3時、満を持してルチアーノがブースに入る。VJではカラフルな色水がカルマン渦を描き出し、ステージ・セットの上方では無数の火柱が吹き上がった。プリミティヴで情熱的な躍動感に満ちた、これがルチアーノの世界だという演出も素晴らしい。驚いたのは、フロアを埋め尽くしたダンサー達を執拗に煽り立て、自らステップを踏んで見るからに楽しそうにプレイするルチアーノの姿にであった。感情を表に出し、音も右肩上がりにアップリフティングなものとなってゆく。以前、サマーソニックで観たアイデア満載のライヴ・パフォーマンスも素晴らしいものだったが、こんなにヒート・アップする人だとは思わなかった。レーベル・カラーは他の2人がきっちり示したことだし、あとは自分がこのパーティを完璧に盛り上げるだけだ、という意気込みが伝わる。あの“Los Ninos de Fuera”のコーラス・リフレインもダンサー達の大喝采をもって迎え入れられるが、どのトラックが、ではなくて終始サーヴィス精神に貫かれたロング・セットのステージとなった。WOMB ADVENTUREの、レーザー光線やミラーボールといった光の演出も最高潮を迎える。それはひたすらに美しい時間だった。夜の終わりを惜しむのではなく、歓喜とともに夜明けを迎えに行くDJだった。

WOMB WORLD WIDE AREAでは、華やかでありながら同時にシルクの織物のようにキメ細やかなエレクトロを繰り出していた大沢伸一が、“ワン・モア・タイム”でWOMB ADVENTURE皆勤賞のDEX PISTOLSにバトンを繋ぎ、こちらもクライマックスを迎えて行った。ダンサー達の中には、濃いアイラインなどでメイク・アップした人も多く見受けられたが、これはCADENZA VAGABUNDOSが提案していたドレス・コードのひとつであり、強い一体感をもたらす参加型パーティへの、賛同の意志の表れだったのだと思う。明確に新しい時代を告げるサウンドと、それを共有するためのスタイルの提示が、美しく咲き誇る一夜であった。また何度でも、こうした歓喜の時間に出会いたい。(小池宏和)
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