神聖かまってちゃん @ 六本木 ニコファーレ

神聖かまってちゃん @ 六本木 ニコファーレ - all pics by 森リョータall pics by 森リョータ
誇張抜きに、20余年のロック・ファン人生を揺さぶられるようなライブ体験だった。同時に、神聖かまってちゃんというバンドがどれだけ画期的なロック・バンドなのかという事実を改めて突きつけられるライブでもあった。アルバム『8月32日へ』を携えた『26才の夏休みツアー』初日。会場は、この7月に六本木にオープンしたばかりのニコファーレである。かつて栄華を誇ったディスコ/クラブ施設・ヴェルファーレの跡地に建設されたビルの地下にあって、通常のスタンディング・ライブとして使用される場合のキャパシティは400人弱と、決して大きくはない。しかし、その会場に足を踏み入れてまず圧倒されるのは、フロア四方の壁がすべてLEDスクリーンになっているという設計だ。映像を流すことはもちろん、ニコニコ動画運営会社ドワンゴによるニコニコ・ユーザーのためのイベント施設というだけあって、ライブのニコニコ生放送中にはインターネット回線の向こうから届けられるコメントが四方のスクリーンを飛び交うのである。初めのうちは会場の名前やLED電飾のド派手さ・悪ノリ感に笑っていたのだが、すぐにこの画期的なハードの凄さを思い知らされることとなった。

開演前からニコ生では楽屋風景が中継されていたようで、「現場うらやましいぞきさまらぁぁぁぁ」「かわいい子多すぎ!」「ピンクこっち見んな」といったコメが飛び交うフロアにいても、本当に会場にいた方が楽しいのかニコ生で観ている方が楽しいのか分からなくなる。個人的には、「マスクの人、映ってますよー」のコメにヒヤリとした。割とフロアの後ろの方にいたんだけどな。オーディエンスもさらし者だが、そのぶんネット空間との緊密な繋がりが生み出す高揚感も半端ではない。「来るぞ来るぞー」という現場オーディエンスの心中と同期したコメに続き、開演予定時間の20時を10分ほど過ぎた頃、かまってちゃん登場と共にスクリーンを埋め尽くす「キターーーー!!」の嵐(いわゆる弾幕)である。の子(Vo./G.)はツアーのために40万円をはたいて購入したという真っ赤なセーター姿。「うるせー! コメ見ろおまえら!」と喚く彼がいつになく嬉しそうな表情を見せていたのも、この時点で既に印象的であった。
神聖かまってちゃん @ 六本木 ニコファーレ
ニコ生での中継という、この上ない最速ライブレポート殺しな企画だったこともあるので、の子が目をひん剥いていきなりの女子ボイスで歌う“白いたまご”からのステージを詳細にレポートすることは、残念ながらほぼ無意味だ。それでも、かまってちゃんの4人(特にの子とみさこ)が、コメントの飛び交う会場で明らかにテンションが上がり、終始ご機嫌だったことは特筆すべきだと思う。の子は思いっきりカメラ目線で気取って見せたりする一方、煽り気味アップの固定アングルがどうにも可笑しいmono(Key.)は「顔面凶器? 俺だよ! 映さないでくださいよ」と聞けない注文を口にしている。しかしそんなmonoがパッドを打ち鳴らしてスタートする“自分らしく”では「monoかっこええなー」のコメントが飛び、同時に「みさこドラム走り過ぎ」と忌憚の無い意見というかツッコミが入るのもニコ生ならではのおもしろさだろう。

で、まさに水を得た魚という風のかまってちゃんがどうなるかというと、演奏がどんどん素晴らしくなるのだ。オルタナ・グルーヴがかっこいい“天使じゃ地上じゃちっそく死”の「死にたいなー」の弾幕の中、ひっそりと一輪だけ咲く花のような「今は死にたくない」のコメにはホロリと来てしまった。そしての子が絞り出すような声で叫び歌う“夕方のピアノ”では夕焼けを背景にコメが流れるのだが、どうやら「死ねー!」のストレートなコメント・シンガロングは削除されてしまうらしい。するとニコ生参加組も心得たもので、すぐさま「タヒねー!」や「ちねー!」を飛ばす。また、の子「なんでギタリストがチューニング出来ねえんだよ!」/ちばぎん(B./Cho.)「なんで俺がキレられるんだよ!」というグダグダなやりとりで仕切り直しを挟みながらも、“コンクリートの向こう側へ”のノイジーでエモーショナルな音響は途方もなく美しかった。1曲プレイされるたびに「88888888(=パチパチパチパチパチパチパチパチ)」のコメがスクリーンを埋め尽くす。「(ニコ生視聴者数が)4万人行った! ありがとうございます!」とみさこは嬌声を発している。凄い。

そもそも27,000人を記録した時点で「27,000人ぐらいで喜ぶな! さいたまスーパーアリーナに行けねえぞ! 俺はいつか、おまえらをさいたまスーパーアリーナに連れてってやる!」と告げたり、「もっと凄くなるからついてこいよ……うんざりした顔すんな! またかよの子、みたいな」だの、女の子みたいな格好で「男ってのは、生まれながらにやっちまいたいじゃん?」とカッコつけてみせたりしていたの子。しかし今回の彼のビッグ・マウスは、いちいちそれがサマになっていた。最終的にあわや7万というニコ生視聴者数を記録したこのニコファーレという舞台装置を使って、の子は現場のオーディエンスとも回線の向こうのオーディエンスとも堂々と渡り合っていた。もちろん、これからもニコファーレでは素晴らしいパフォーマンスが数多く繰り広げられてゆくことだろう。しかし現時点においてこの舞台装置は、かまってちゃんにとって言わば翼を持つものにとっての大空であり、戦士にとっての戦場であり、つまりバンドの力を最も効果的に発揮することの出来る舞台である。今回のニコ生有料コンテンツのネットチケット価格は1,500ニコニコポイントで、金額に換算すると1,500円。大雑把に¥1,500×69,000人=¥103,500,000の売り上げだ。い、いちおく!? どう解釈していいか分からない数字が出てしまったのでちょっと書いたことを後悔しているが、かまってちゃんがそういうスケールのロック・バンドなのだということは分かるだろう。
神聖かまってちゃん @ 六本木 ニコファーレ
神聖かまってちゃん @ 六本木 ニコファーレ
神聖かまってちゃん @ 六本木 ニコファーレ
かまってちゃんが、ニコ生を会場のスクリーンと連動させるライブを行うのは今回が初めてではない。でもこれまで、どんな舞台でも満たされず暴れ回り、テレビ・カメラにはナルトを貼付けたりしていたの子は、不思議なぐらい満ち足りた表情で、そして目一杯のパフォーマンスを繰り広げていた。ライブ会場の生の声とインターネット空間を通って届けられる声に埋もれながら、笑い、汗まみれで取っ組み合っていた。こんなに生き生きとしたの子は観たことが無かった。彼の孤独な魂には、これだけのスケールのコミュニケーションが必要だったのだろう。最も重要なことは、そのコミュニケーションが、共犯者であるロック・バンドと、悲痛な叫び声の如き歌と爆音とノイズ、そして美しいメロディを介して行われたということだ。ハイテク極まりないハードの中で、ロックンロールという手垢にまみれたアナログなソフトが輝いていた。ロックンロールは鳴り止まない、その必然と、完璧な手応えがあった。気づけば、僕はひたすらその光景に打ち震えていたのである。

ちばぎんのファンキーなベース・ラインに、の子がフリースタイルのラップを乗せて決めまくる“いかれたNEET”もめちゃめちゃかっこいい。4つ打ちのダンス・ロック・ナンバー“黒いたまご”では、「コメント職人いねえのか、なんかやれー!(たぶん、ビートと同期して流れるようなアイデア・コメントを要求しているのだろう)」というの子の呼びかけに「無茶いうな」とコメが返される。でも頑張って『beatmania』風のコメントを作って飛ばしてくる人もいた。楽しい。本編ラストは、この日全編に渡って大活躍していたサポートのバイオリン奏者=ビビさんこと柴由佳子の奏でる旋律に導かれた名曲“ちりとり”。だめだ泣く。音はスカスカになってしまう所もあるし、そもそもこのバンドに演奏技術のことを言っても仕方がない。の子はギターを振り回したりしている。そんなことはもはや問題ではない。なんて素晴らしいライブなのだろう。

アンコールは、40万円のセーターを再び着たの子が更にジョン・レノンのような丸ブチのサングラス(レンズにはスマイリー・マークが透かし見える)を装着して「かっとばして行くぞー!」と“23才の夏休み”からのキラー・チューン連打だ。“学校に行きたくない”ではの子、monoのキーボード上から思いっきりフロアにダイブをかます。演奏が続いてもしばらく戻ってこないのでヒヤヒヤしたが、スタッフ(マネージャー劔氏?)にお姫様抱っこされてステージに連れられて来た。「大丈夫!? 僕は楽しかったけど! 泣きそうになっちゃったよ!」そして“ぺんてる”から満を持しての“26才の夏休み”へ。ひときわジェントルなプレイが染みる。の子はこの曲を、最後までがっちりと歌い込んでいた。彼もみさこも感極まった表情である。「泣いちゃったよ! おまえら、またインターネット空間で会おう!」と告げて、約2時間半のショウは幕を閉じた。

素晴らし過ぎるライブだったので帰路でもずっと余韻を引き摺る羽目になってしまった。でもやっぱり、新作の曲が少なすぎる点はちょっとどうかと思う。コメントでも“夕暮れメモライザ”をリクエストする声がかなり多かったし、僕としてはこういう充実したテンションの中での“バグったのーみそ”をぜひ聴いてみたかった。配信公開のみの楽曲がプレイされるのは彼らの大切な特性だから良いとしても、痺れを切らしたちばぎんがツッコむまで“グロい花”がプレイされなかったり、それとアンコール最後の“26才の夏休み”だけというのはあんまりである。12月まで、日曜日と祝日を埋めるように全国展開してゆく『26才の夏休みツアー』はまだ始まったばかり。多くの人に「今の」神聖かまってちゃんを見届けて欲しいところだ。僕はこの日に観た光景を、きっと生涯忘れないだろう。(小池宏和)

※注:この文中にある「69,000人」という視聴者数は、お試しの無料視聴者数を含む延べ人数であることが、後日判明しました。従って、この人数が1,500ニコニコポイントを支払ったわけではないことを、ここに追記させていただきます。(RO69編集部)


セット・リスト
1:白いたまご
2:レッツゴー☆武道館っ!
3:Os-宇宙人
4:自分らしく
5:天使じゃ地上じゃちっそく死
6:夕方のピアノ
7:コンクリートの向こう側へ
8:ねこラジ
9:スピード
10:いかれたNEET
11:グロい花
12:黒いたまご
13:ベイビーレイニーデイリー
14:美ちなる方へ
15:男はロマンだぜ!たけだ君っ
16:ちりとり
EN-1:23才の夏休み
EN-2:ロックンロールは鳴り止まないっ
EN-3:学校に行きたくない
EN-4:ぺんてる
EN-5:26才の夏休み
公式SNSアカウントをフォローする

最新ブログ

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on