THE BACK HORN@日比谷野外大音楽堂

THE BACK HORN@日比谷野外大音楽堂 - all pics by (C)橋本 塁(SOUND SHOOTER)all pics by (C)橋本 塁(SOUND SHOOTER)
THE BACK HORN@日比谷野外大音楽堂
曇り空の下、四方を囲む森からは蝉の声が壁のように分厚く打ち寄せてくる野音のステージに、両手を上げてガッツポーズをとった菅波栄純(gu)を先頭に4人が入場してくると、それだけで超満員の客席がぶわっと沸きあがる。 最初に演奏されたのは“レクイエム”。音源では反復されるギターのフレーズが印象的な曲だが、今回はそれ以上に重心の低いビートが強調された音像となっていて、否が応でも聴き手の腰を動かせる。一度目のサビが終わるころには、もう沸点まで持っていかれている。最高のオープニングである。26日に沖縄・桜坂セントラルでのワンマンを控えているためセットリストの詳細は控えるが、このオープニングの勢いを殺さぬまま最後まで駆け抜ける、怒涛の短距離走のような2時間だった。

“レクイエム”でもそうだったが、ライヴの序盤で特に感じたのは、岡峰光舟(ba)の演奏の良さ。もう、集中力から暴れ具合までキレッキレだった。正確なリズムを刻みビートの土台を支えつつ、ココ!というところに遊びを盛り込む普段の彼のプレイが、さらに研ぎ澄まされることによって、土台の役割を担いながらも楽曲の主役を張るような瞬間が沢山あった。もちろんずっと前から良いベーシストであったわけだが、「良いベーシスト」以上の存在になっていくのかもしれない、と思わされた。
また、長髪を切り落とした頭が新鮮だった山田将司(vo)のステージ・アクションの格好良さも、ライヴハウスに比べ明るい野音だからこそより分かりやすく露わになっていたと思う。あの演舞のようなアクション、華があるし絵になることももちろんだが、何よりその動きによって本分であるヴォーカルが全く妨げられていないのが素晴らしいと思う。

最初に訪れたハイライトはライヴ中盤での、曲展開と詞世界がドラマティックに移り変わる暗黒のロック・オペラ“ジョーカー”から込み上げる性衝動を昇華したようなリリックが素晴らしいハードコア・チューン“墓石フィーバー”に繋ぐという狂乱の流れ。気が付けばすっかり暗くなっていた日比谷の空を、感情を抑えきれないかのようにのたうち回りながら放つ絶叫が切り裂いていく様は見ていて本当に圧巻だった。また、今日もステージの照明はいたってシンプル、その他特段の演出はなし、という「いつものバックホーンのライヴ」だったのだが、この2曲はなぜその簡易さがこのバンドの常となっているのかの理由を回答していたように思う。それは、スモークを焚いて赤い照明を当てているだけで十二分に格好良くなってしまうから、である。ほんの些細な舞台装置さえあれば(もしかしたら、それさえなくてもいいのかもしれない)曲世界を具現化できるだけの強固な世界観が完成しているため、基本的には4人とサウンドシステム以外何も必要ない、ということなのだ。ある意味、ロック・バンドとして理想的なことだと思う。

THE BACK HORN@日比谷野外大音楽堂
この『第二回夕焼け目撃者』はタイトル通り、2004年7月に日比谷野外音楽堂で行われた『夏のワンマン市街戦!~夕焼け目撃者~』から、7年ぶり2度目の野音ワンマンとなっている。この7年間でバックホーンは音楽的に本当に激しい変遷を辿ってきた。いや、例えばエレクトロニカを大胆に取り入れたり、いきなりレゲエに傾倒したりということではないから、「音楽的に」という言葉は相応しくないかもしれない。ただ、それでもそう言いたくなってしまうくらい、アルバムごとの曲ごとに描かれる世界や感情は激しく揺れ、それを反映して曲全体も(スタイルとしては同じギター・ロックでも)全く違う鳴り方をしてきた。そして、その揺れ幅が急激に激しくなったのが7年前の「夕焼け目撃者」の後に出されたアルバム『ヘッドフォンチルドレン』からで、その不安定な季節を終わらせる、彼らにとっての金字塔となったのが目下の最新作『アサイラム』だったと僕は思っている。それは、絶望や憂鬱を吐き散らかすような初期の活動の結果としてどんどん世界が開かれ孤独でなくなっていったことに対する彼ら自身の戸惑いと、その状況にどう対処していくかというトライアルを良くも悪くも率直に記録してきたがゆえの紆余曲折の道のりだったはず。改めて言うのも野暮かもしれないが、どこまでも愚直で、正々堂々としたバンドなのである。そして、そんなバンドに対し、共感したり、あるいは「俺ならもっと上手くやるのに」なんてやきもきしたりしながら、それでも変わらず愛を持ち続けたファンが、そのファンとしての時間の長さを問わず同じだけの情熱(最大限の情熱がないとなかなかチケットを入手できないであろう倍率だったはず)を持ってこの野音を埋め尽くしているのである。立ち見までパンパンになった客席全体が一斉に握り拳を振り上げ、曲が終わればとめどない歓声を浴びせる。ライヴ中も曲が終わる度にそんな目の前の光景に胸を打たれていたけど、こうして文字にしていくと改めて込み上げてくるものがある。

ただ一点、最新作『アサイラム』が金字塔となった、と書いたが、その点に関して抱いていた不安が今日晴らされることはなかった。その不安とは、卓越した完成度のあまり『アサイラム』が彼らの『アビー・ロード』になってしまうのではないか、あるいは最初はそんな辛気臭い終焉のムードと無関係であっても徐々に『空洞です』になっていってしまうのではないか、ということ。つまり、それまでの実験や試行錯誤が全て実を結んだようなあの幸福な傑作が、逆にそこからの進む方向と術を見失わせる最終到達点になってしまいはしないか、ということである。今日のライヴでも山田がエレアコを弾きながらメロディにアレンジを加え歌い上げた“夢の花”など、多少の新機軸は見られたものの、次の目的地を明確に示すような要素は、自分には感じられなかった。しかし、松田晋二(dr)はMCでこんなことを言っていた。「今年は今のところリリースもないんですが、今は次なる扉を開けようと日々頑張っています。今後も諦めず、やっていきます」と。どれだけもがき悩もうとそこから逃げなかった、またその姿を隠そうとしなかった彼らだからこそ、この言葉にはただならぬ説得力がある。この言葉を信じてとりあえずのところは、今日発表された、10月から始まる『「KYO-MEIワンマンツアー」~魂のマーチ~』を楽しみに待とうと思う。(長瀬昇)
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